血液疾患領域での悪性腫瘍性疾患

多発性骨髄腫とは

血液細胞の一種である形質細胞が腫瘍化した血液のがんです。正常の形質細胞は、身体に侵入したウイルスや細菌などの異物を排除する作用をもつタンパク質(抗体=免疫グロブリン)を産生します。がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)からは単一の抗体(Mタンパク)が多量に産生され、血液中に異常に増加し、その一部は尿中へ漏れ出てくることがあります。骨髄検査により増加した骨髄腫細胞、または血液および尿検査によりMタンパクを証明することにより診断します。

症状

1_骨の痛み

この病気になると骨の中心にある骨髄(赤血球、白血球、血小板を造っている)で骨髄腫細胞が周りの骨を破壊しながら増え続けるため、骨の痛みを感じるようになり、全身のいたるところの骨が弱く折れやすくなります。痛みの場所が移動するのも特徴のひとつです。

2_身体のだるさ、めまい、動悸、頭痛

これは骨髄の中で骨髄腫細胞が増え、正常の造血機能が障害されるためにあらわれる貧血による症状です。

3_発熱、出血傾向

発熱の主な原因は正常の抗体がつくられにくくなるために細菌やウイルスに対する抵抗力が弱まり感染症を合併しやすくなるためですが、多発性骨髄腫の病気自体のために発熱を伴うこともあります。血小板が減少することにより出血しやすくなるため、皮下出血、鼻出血、歯肉出血などがみられることもあります。

4_その他

食飲不振、体重減少、むくみ、あるいは手足のしびれなどの神経症状も認めます。また、腫瘤を触れることで見つかる場合もあります。病気が進行すると骨が溶け出すことにより、血液中のカルシウム濃度が上昇(高カルシウム血症)し、意識障害などが出現することもあります。

病気の進行度(病期、ステージ)

貧血の程度、血清カルシウム濃度、骨X線写真による骨融解像の程度、およびMタンパクの量の4項目によりⅠ、Ⅱ、Ⅲ期に分類されます。これとは別に血清アルブミン値、血清β2ミクログロブリン、年齢、およびCRP値によって低・中・高危険群にも分類する方法もあります。

治療法

臨床病期分類Ⅱ、Ⅲの方が治療対象となります。病期Ⅰの方は3ヵ月毎位に検査を行い、進行を認めたら治療を開始するというのが標準的な方針です。標準的には抗がん剤を用いた化学療法を行いますが、治療方針を決定する上で、造血幹細胞移植の適応となるか否か(主に年齢)で方針が異なります。

1_化学療法

多発性骨髄腫の初期治療としてMP(メルファラン+プレドニゾロン)療法、MPB(MP療法+ボルテゾミブ療法、大量DEX(デキサメサゾン)、BD療法(ボルテゾミブ+デキサメサゾン)、VAD(ビンクリスチン、アドリアマイシン、デキサメサゾン)療法等があります。治療目標としてはM タンパクが減り、定常状態(プラトー)になるまで治療を継続します。これらを2~3コースやって効果がないと判断された場合には別の治療に変更します。その際にはレナリドマイド、サリドマイドを含む治療が有効とされており、選択の一つになります。また、治療後プラトーに到達し、半年以上経過して再発した場合、半年以上間隔をあけることで過去に使用した薬剤の感受性が回復することがあり、再投与を行う場合もあります。

2_放射線療法

骨病変のうち腫瘍病巣が狭い範囲に限られている場合や、腫瘤を形成している場合の最もよい治療法です。痛みを軽減したり、腫瘍による神経圧迫症状の改善が期待できます。

3_造血幹細胞移植

最も強力な治療法と考えられており、年齢や病期により移植が選択されることもあります。移植方法には自家移植と同種移植の2つの方法があります。全ての人が行える訳ではなく、適応のある場合には後日詳しい説明をさせて頂きます。同種移植の場合には、HLAという組織の型が一致した提供者が必要です。

4_ゾレドロン酸(ゾメタ)

ゾメタというビスフォスフォネート製剤の点滴が、多発性骨髄腫の骨関連事象を減少させ、骨髄腫細胞の進展を抑える作用があると報告されています。点滴で4週間ごとに約2年間継続します。

副作用

1_抗がん剤の副作用

悪心、嘔吐、脱毛、造血障害、粘膜障害、心臓機能障害、手足のしびれ、精神症状、糖尿病、便秘等があります。悪心、嘔吐は制吐剤を投与することにより軽減できます。造血障害は一時的なもので1~2週間で回復しますが、遷延した場合には重症感染症を合併したり輸血が必要になることもあります。

またボルテゾミブによる造血障害や手足のしびれや呼吸器障害、レナリドマイドによる造血障害や血栓症、サリドマイドによる血栓症や眠気や便秘等があります。

2_放射線の副作用

放射線が照射された皮膚の発赤やはれ、色素沈着などがありますが、治療後次第に回復します。

予後

病期(ステージ)と治療効果、および腎障害の程度により異なり、生存期間は数ヶ月から10年以上までさまざまです。診断後ただちに治療が必要である、Ⅱ/Ⅲ期の半数以上の方が生存できる期間は3~4年前後とされています。約1/4の方に5年生存が期待できます。