膵がん

膵がんとは

膵臓から発生したがんのことを一般に膵がんと呼びます。膵臓は胃の後ろにある細長い臓器で、右側は十二指腸に囲まれており、左の端は脾臓に接しています。右側はふくらんだ形をしているので頭部と呼び、左端は細長くなっているので尾部といいます。頭部と尾部との間の1/3ぐらいの大きさの部分を体部と呼びます。膵臓の主な働きは、消化液をつくることと、血糖を調節するホルモンをつくることです。膵臓がつくる消化液は膵液と呼ばれ、膵管という細い管の中に分泌されます。

年齢別にみた膵がんの罹患(りかん)率は60歳ごろから増加して、高齢になるほど高くなります。

残念なことに、その診断と治療はいまだに難しいことが知られています。膵臓は身体のまん中にあり、胃・十二指腸・小腸・大腸・肝臓・胆嚢・脾臓などに囲まれているため、がんが発生しても見つけるのが非常に難しいのです。その上、どんな人が膵がんになりやすいのかもあまりわかっていません。また、早い段階では特徴的な症状もありません。このような理由で、胃がんや大腸がんのように早期のうちに見つかるということはほとんどありません。早期発見はどのような治療よりも治癒率の向上に貢献しますので、どうしたら早く発見できるかという研究が意欲的に続けられています。

症状

膵がん、特に早期の膵がんに特徴的な症状はありません。比較的膵がんに関連のあるものとして、身体や白目が黄色くなる黄疸があります。この時は、身体がかゆくなったり、尿の色が濃くなったりもします。黄疸は、膵臓の頭部にがんができて、胆管がつまってしまった時におこるのですが、胆石や肝炎などが原因の時もあります。 そのほか、膵がんができると、糖尿病を発症したり血糖のコントロールが急に悪くなったりすることがあります。

診断

まず超音波検査や内視鏡・胃のレントゲン検査などを行って、胃炎・胃潰瘍・胆石などの一般的な消化器の病気がないかどうか調べます。超音波検査では膵臓の観察もできますので、異常があれば次の検査に進みます。

また、超音波では異常がはっきりしない場合でも、症状や血液検査のデータで、膵臓や胆管などに病気のある可能性がある場合には、X線CTやMRIなど超音波以外の方法で身体の断面を観察することのできる検査を行います。また、ERCPという検査を行う場合もあります。

この検査は、胃カメラのような内視鏡を十二指腸まで運び、前に述べた十二指腸乳頭という膵管と胆管の出口に細い管を差し込み、造影剤を注入して膵管や胆管の形を調べるものです。この時に、膵液を採取して細胞の検査やがん遺伝子の検査を行うこともあります。

最近では、MRIを利用してERCPと類似した情報を得ることができるMRCPという技術が普及しました。患者様の負担が小さいという利点があるため、ERCPの代用としてこちらを行うことが多くなってきています。黄疸のある場合には、まず内視鏡を用いて胆管の出口(十二指腸乳頭)から胆管の中に管を入れ、胆管がつまっているかどうかを確認します。胆管がつまっている場合(閉塞性黄疸)には、細い管を胆管の中に入れ、この管から胆汁を十二指腸内または体外に流し出すことにより黄疸を治療することができます。また超音波で観察しながら肝臓の中の胆管に針を刺し、これを利用して細い管を胆管の中に入れ、胆汁を外に流し出すことにより黄疸を治療することもあります。

治療

膵がんの治療には主なものとして外科治療・放射線療法・化学療法(抗がん剤)の3つがあります。腫瘍の進行程度と全身状態などを考慮して、これらの1つ、あるいはこれらを組み合わせた治療が行われます。

1_外科治療(手術)

がんを含めて膵臓と周囲リンパ節などを切除する方法です。膵がんの治療の中では最も確実な治療法となります。膵がんの位置によって以下のような方法が選択されます。ただし、肝臓に転移を認める場合や、主要な動脈にがんの浸潤を認める場合は手術以外の治療法の対象となります。

a) 膵頭十二指腸切除

膵頭部を中心にがんがある場合に、十二指腸・胆管・胆嚢を含めて膵頭部を切除します。胃の一部を切除する場合と、胃をすべて温存する場合があります。門脈という血管にがんの浸潤が疑われる場合は、門脈の一部も合併切除して再建することで、がんの切除は可能です。切除後には膵臓、胆管、消化管の再建が必要となります。

b) 膵体尾部切除

膵臓の頭部よりも尾側にがんがある場合に、膵臓の体尾部と脾臓を一緒に切除します。切除後の消化管の再建は必要ありません。

c) 膵全摘術

がんの範囲によっては、膵全摘術といって、膵臓のすべてを切除する手術が必要となる場合もあります。ただし、術後には血糖を調整するために、インスリンの注射が必須となります。

d) その他

がんを切除することはできない場合でも、十二指腸など閉塞して食事がとれなくなるのを防ぐための胃と小腸のバイパスや、黄疸が出ないようにするための胆管と小腸のバイパス手術を行うことがあります。

2_放射線療法

放射線療法は放射線を患部に照射してがん細胞を壊そうとする治療です。抗がん剤と併用されることがあります。

3_化学療法

化学療法は抗がん剤を使ってがん細胞を殺そうとする治療です。通常は抗がん剤を静脈から注射することが多いのですが、経口の抗がん剤が使用されることもあります。

4_その他

その他の治療としては、温熱療法や免疫療法などが試みられていますが、はっきりした効果は確認されていません。

5_緩和治療

膵がんは、痛みや嘔気などの症状を伴うことが多く、これらの症状を和らげるために、緩和治療が行われます。

治療法の選択

どのような治療を行うかは、がんの進行度と全身状態によって決定されます。がんが膵臓あるいはその近辺に限局している場合は、切除手術あるいは手術を中心とした治療を行います。がんの範囲は限局しているけれども切除できない理由がある場合には、放射線療法や化学療法などが行われます。これらにバイパス手術を組み合わせることもあります。がんが広い範囲にある場合には抗がん剤による治療を行います。いずれの場合も全身状態があまりよくないため、がんに対する治療の負担が大きすぎると考えられる場合には、痛みのコントロールや栄養の管理などに重点をおいた緩和治療を行うことがあります。

治療の副作用

1_外科療法

手術による副作用の程度は手術法によって異なります。例えば、膵臓全体を切除した場合には糖尿病になりますが、膵臓の一部を残せた場合は、もともと糖尿病の傾向があるのでなければ、糖尿病になることはあまりありません。がんのある範囲によっては腸の動きを調整する神経を残せないことがあり、この場合には下痢をおこしやすくなります。手術により胃の動きが悪くなり、食事がしばらくとりづらいことがあります。また、一般に膵臓の頭部をとる手術のほうが、尾側をとる手術に比べ腸をつないだりするところが多いため回復するまでの時間がかかります。

2_放射線療法

放射線治療の副作用は、放射線を照射する場所や量によって違います。一般的な副作用としては、嘔気・嘔吐、食欲不振や血液の中の白血球などが減ってしまうことがあります。放射線の影響で胃や腸の粘膜があれて出血し、黒色便や下血をすることもあります。

3_化学療法

よく見られる症状としては、食欲不振や嘔気、下痢などの消化器症状や白血球や血小板が減ってしまう血液の異常などがあります。薬剤によっては湿疹や脱毛がおこるものもあります。 副作用は、使用する抗がん剤によって異なりますので、担当医の話をよくお聞きになってください。

(国立がんセンターがん対策情報センター情報サービスより一部抜粋)