咽頭がん

脳より下方、鎖骨より上方の領域(顔面から頸部全体)を頭頸部と呼びます。そこに生じるがんを頭頸部がんと総称し、一般的に耳鼻咽喉科が診療にあたります。頭頸部がんはその発生部位によって喉頭がんや舌がんなどに分けられますが、ここでは頭頸部がんの中の咽頭がんについて説明します。

咽頭がんとは

咽頭は一般的に「のど」といわれる部位で、上・中・下に分類されます(図)。

上咽頭(じょういんとう)は鼻の突きあたりにあり、上方は頭蓋底になり、側方には耳につながる耳管の開口部があります。

中咽頭(ちゅういんとう)は上咽頭の下方にあり、開口時に見える場所です。 下咽頭(かいんとう)はさらに下方にあり、食道や喉頭の入口付近に位置します。

咽頭の図

咽頭がんはこれらの部位に発生したがんで、それぞれ上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんといいます。

咽頭がんの誘因としては中咽頭がんと下咽頭がんでは喫煙や飲酒が挙げられます。一方、上咽頭がんや一部の中咽頭がんでもウイルスの関与が示唆されています。また、一部の下咽頭がんは長期の貧血によって発症しやすくなることがわかっています。

症状

上咽頭がんの症状には、鼻づまりや鼻出血といった鼻症状、耳管開口部をがんが閉塞することによって耳のつまった感じや難聴といった耳症状があります。さらにがんが頭蓋内に浸潤すると複視(物が二重に見えること)や視力障害、疼痛といった脳神経症状が出現するようになります。

中咽頭がんでは、嚥下時(食物を飲み込むこと)の異和感、しみる感じなどの症状があり、やがてのどの痛みや飲み込みにくさ、しゃべりにくさなどが強くなり、さらに進行すると耐えられない痛み、出血、開口障害、嚥下障害(飲み込みの障害)、呼吸困難などの症状が出現してきます。

下咽頭がんの初期には症状として嚥下時の異物感が出現します。その後、がんが進行すると咽頭痛や耳への放散痛が出現し、声がれ、血痰、嚥下障害、呼吸困難などが認められるようになります。

診断

咽頭がんの診断は視診と病理組織検査(病変部から組織を一部とり、顕微鏡下に組織診断を行うこと)で行われます。咽頭がんと診断されるとCT、MRI、シンチグラムなどでがんの進展範囲や、リンパ節への転移の有無、遠隔転移の有無を調べた上で治療方針を決めます。また、中咽頭がんや下咽頭がんでは食道がんや胃がん、肺がんを併発している(重複がん)ことがあるため上部消化管内視鏡検査も行われます。

治療

がんの治療には外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法などがあります。これらの治療は単独で行われることもありますが、外科療法と放射線治療を組み合わせて行うことや3つの治療を全て行うことなど、がんの種類と進行の程度に応じ治療法が選択されます。

咽頭がんの特徴としては、呼吸、嚥下、構音など生きていくために重要な機能を担っている部位のがんであること、また、顔面や頸部など目に付く部位であることが挙げられます。そのため、咽頭がんの外科療法では腫瘍の切除とともに機能改善と外貌改善の手術(再建外科治療)も同時に行われることがあります。

また咽頭がんは放射線感受性が良好であることが多く、放射線治療も行われます。咽頭がんの放射線治療は、一般的に1週間に5回(月曜日から金曜日)、6~7週間行われます(施設によって異なります)。

化学療法は放射線の補助療法として放射線療法の前や放射線療法と同時、または放射線療法終了後に行なわれます。また、手術後に外来にて行われる化学療法などさまざまな方法が行われます。

予後

がんの予後を測る指標として5年生存率(がんと診断されてから5年経過後に生存している率)が用いられます。近年の報告では上咽頭がんの5年生存率は約50%、中咽頭がんで約50~60%、下咽頭がんで約40%と言われています。しかし、この生存率はがんの進行度、治療法、また患者様の合併症等で異なるため、ひとつの目安として用いられる値です。