血液疾患領域での悪性腫瘍性疾患

成人T細胞性白血病リンパ腫とは

血液細胞のなかのリンパ球のうち、Tリンパ球が悪性化して、リンパ節や血液の中で異常に増加し、骨髄や肝臓、脾臓、消化管、肺、皮膚、脳など全身の臓器に拡がっていくものです。

成人T細胞白血病リンパ腫は、ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(human T-cell leukemia virus type Ⅰ:HTLV-Ⅰ)の感染により引きおこされることが明らかになっています。HTLV-Ⅰに感染している人は、日本全国で約120万人(人口の約1%)と推定されており、九州、沖縄など南西日本に多いことが知られています。成人T細胞白血病リンパ腫を発症するのは、HTLV-Ⅰ感染者10,000人について年間6人あまりで、大部分の方はHTLV-Ⅰに感染していても成人T細胞白血病リンパ腫を発症しないことになります。なぜHTLV-Ⅰに感染している人が成人T細胞白血病リンパ腫を発症するのかについては、現在研究が進められていますがまだ十分に解明されていません。

感染経路

1_母児間の母乳を介しての感染

母児間の感染は、母親がHTLV-Ⅰに感染している場合、子供の20~30%に感染がおこっており、母乳の中に含まれるHTLV-Ⅰに感染したリンパ球が、その主な原因と考えられています。母親がHTLV-Ⅰに感染している場合、授乳を中止することにより子供への感染をほぼ防止できることが確かめられています。

2_夫婦間の(特に夫から妻への)性交渉での感染

夫婦間感染では、主に夫から妻へ、精液中のHTLV-Ⅰに感染したリンパ球を介して感染すると推定されています。しかし、夫婦間感染によってHTLV-Ⅰに感染した場合は、成人T細胞白血病リンパ腫を発症することは極めてまれであるため、今のところ夫婦間感染に対する特別な対策は立てられていません。

3_輸血

輸血による感染は、1986年から全国の血液センターで献血時にHTLV-Ⅰ抗体の検査が行われており、現在輸血による感染の心配はありません。

※日常生活で感染することはなく、成人T細胞白血病リンパ腫の方やHTLV-Ⅰのキャリアが、隔離されたり生活の制限を受ける必要は全くありません。

症状

1_リンパ節腫脹、臓器腫大

頸部、わきの下、足のつけ根などのリンパ節がはれます。

2_易感染性

細菌やウイルスに対する抵抗力が低下して、肺炎などの感染症をおこして発熱等の症状が出ることがあります。

3_貧血、血小板減少

骨髄に及んだ場合には、正常な赤血球や血小板の造血が妨げられ、全身倦怠感、動悸、息切れなどの貧血の症状や、鼻出血、歯肉出血などの出血症状がみられることがあります。

4_皮膚症状

悪性化したリンパ球が皮膚に拡がった場合は、皮疹等の皮膚症状が起こることがあります。

5_高カルシウム血症

白血病細胞の作用により血液中のカルシウム値が高くなり、腎障害、意識障害、食欲不振、吐き気やのどの乾きなどの症状がみられることがあります。

6_その他

腫瘍細胞が中枢神経と呼ばれる脊髄や脳にも浸潤し、頭痛や吐き気等が認められることがあります。

診断

成人T細胞白血病リンパ腫は、一般に次の5つのタイプに分けられます。

1_急性型

血液中に花びらの形をした核を持つ異常リンパ球が多数出現し、急速に増えていくタイプです。リンパ節のはれや、皮疹、肝臓・脾臓の腫大を伴うことも多くみられます。消化管や肺に異常リンパ球が浸潤する場合もあります。感染症や血液中のカルシウム値の上昇がみられることもあり、抗がん剤による早急な治療を必要とします。

2_リンパ腫型

悪性化したリンパ球が主にリンパ節で増えて、血液中に異常細胞が認められないタイプです。急性型と同様に急速に症状が出現するために、早急に抗がん剤による治療を開始する必要があります。

3_慢性型

血液中の白血球数が増加し、多数の異常リンパ球が出現しますが、その増殖は遅く、症状をほとんど伴いません。無治療で経過を観察することが一般的に行われています。

4_くすぶり型

白血球数は正常ですが、血液中に異常リンパ球が存在するタイプで、皮疹を伴うことがあります。多くの場合、無治療で長期間かわらず経過することが多いため、数ヶ月に1回程度の外来受診で経過観察が行われます。

5_急性転化型

慢性型やくすぶり型から、急性型やリンパ腫型へ病状が進む場合を急性転化型と呼ぶことがあります。この場合には、急性型やリンパ腫型と同様に、早急に治療を開始する必要があります。慢性型やくすぶり型が急性転化をおこす頻度と最初の診断から急性転化までの期間は、まだ十分に解明されていませんが、慢性型では2~5年程度、くすぶり型ではさらに長い期間を要すると考えられています。この他、リンパ腫型から急性型へ変化することもしばしば経験されます。

治療法

1_化学療法

成人T細胞白血病リンパ腫の治療は、抗がん剤による化学療法が主体となります。また、場合によっては脳や中枢神経、脊髄に浸潤した腫瘍細胞に対し、髄腔内(ずいくうない)注射といって、細い針で抗がん剤を髄液内に入れることもあります。通常、非ホジキンリンパ腫に有効な抗がん剤(ビンクリスチン、エンドキサン、アドリアマイシン、メソトレキセート、エトポシドなど)が用いられ、これらの抗がん剤の併用療法によって、全体の30~70%の場合で寛解(悪性細胞が減少して、症状や検査値異常が改善した状態)が得られますが、早期に再発、再燃が起こることが多く、最終的な治癒が期待できるのは残念ながらごく一部にとどまっています。

2_造血幹細胞移植

現時点で唯一、治癒が期待できる治療法と考えられています。最近では、65歳位までの中高年者を対象に薬剤の強度を落とした造血幹細胞移植の試みがなされており、病型や全身状態等により選択できることもあります。

適応のある場合には後日詳しい説明をさせて頂きますが、全ての人が行える訳ではなく、HLAという組織の型が一致した提供者が必要です。

副作用、合併症

1_嘔気・嘔吐

抗がん剤の副作用で生じ、投与直後から出現します。場合によっては食事摂取が不十分となるため、中心静脈カテーテルから高カロリー栄養や電解質の補充を行います。最近では優れた吐き気止めがあるため程度は軽くなってきています。

2_脱毛

抗がん剤の副作用で生じます。治療を終了するとほとんどの場合は元に戻りますが。希に遷延することがあります。

3_正常白血球減少時の感染症

病気そのものにより、または抗がん剤の副作用で生じます。予防的には抗菌剤(抗カリニ、抗真菌)の内服、手洗い、およびうがいの励行などがありますが、実際に生じた場合には十分な抗生物質の投与を行います。また白血球数を増加させる薬剤を皮下注射します。

4_貧血・血小板減少

白血病自体でも生じますが、抗がん剤によってもおこり、貧血症状や出血症状が出ます。場合によっては致命的になることもありますので十分な治療が必要です。実際には、日本赤十字社から取り寄せた赤血球製剤、および血小板製剤を輸血することにより、減少した赤血球や血小板を補充します。輸血に関する説明書は別にありますので参考にして下さい。

5_その他

抗がん剤やその他必要な薬剤により、肝機能障害、腎機能障害、および心機能障害が出現することがあります。

また、成人T細胞白血病リンパ腫は、通常の非ホジキンリンパ腫に比べ、ウイルス感染症、カビによる感染症、カリニ原虫による肺炎、糞線虫症など、健康な人にはほとんどみられない特殊な感染症(これを日和見感染症といいます)が起こりやすく、これらに対する予防や治療も並行して行いますが、重篤かつ致命的になることがあります。

予後

生存期間中央値 2年生存率 4年生存率
急性型 6.2ヵ月 16.7% 5%
リンパ腫型 10.2ヵ月 21.3% 5.7%
慢性型 24.3ヶ月 52.4% 26.9%
くすぶり型 - 77.7% 62.8%

※この病気は通常、一度よくなっても再発、再燃の可能性が高く、再発した後は化学療法の効果が悪いことが知られています。