南予医学雑誌20巻
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-74-南予医誌 Vol.20 No. 1 2020 正中弓状靭帯(median arcuate ligament:以下, MAL)は左右の横隔膜脚が線維性組織で結合したもので、大動脈裂孔の前方辺縁を構成する。このMALが腹腔動脈起始部を上方から圧迫して血行異常を来し膵十二指腸領域に動脈瘤を形成することがあり、正中弓状靭帯圧迫症候群(median arcuate ligament syndrome:以下, MALS)として最近注目されている1-5)。今回、我々は造影CT及び3D-CT angiography(以下, 3D-CTA)でMALSによる前下膵十二指腸動脈瘤破裂と診断し、経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: 以下, TAE)で治療した1例を経験したので、若干の文献的考察を加え報告する。 60歳台男性。既往歴、家族歴に特記すべき異常なし。内服なし。突然の腹痛で前医を受診、CTで後腹膜出血を認め、当院に搬送された。血圧146/95mmHg、脈拍76回/分、体温37.4℃、酸素飽和度97%で、心窩部に圧痛を認めた。血液検査では、WBC12,350/μl、RBC379万/μl、Hb 10.9mg/dl、Ht31.9%、PLT27.1万/μlと軽度の貧血を認めた。肝機能や腎機能、電解質、凝固能、血液ガスに大きな異常はなかった。 前医の腹部CTで十二指腸水平脚腹側の後腹膜に大きな血腫を認めた。当院でdynamic CTを実施したところ、造影早期相で血腫の内部に径10mmの動脈瘤を認め(図1)、出血源と考えられた。3D-CTA(volume rendering image)で動脈瘤は前下膵十二指腸動脈に認め、腹腔動脈起始部はMALに覆われていた(図2)。矢状断再構成画像(multiplanar reformation)と3D-CTA左側面像で腹腔動脈起始部はMALに上方から圧迫され「J型」に狭窄していた(図3)。MALSによる前下膵十二指腸動脈瘤破裂と診断、TAEの方針となり、同日、血管造影を実施した(図4)。上腸間膜動脈造影では腹腔動脈側への膵アーケードを介した血流を認めた。前下膵十二指腸動脈瘤に対し、その近位部と遠位部を金属コイルで塞栓し、動脈瘤は消失した。塞栓術後、腹腔動脈や上腸間膜動脈の血行動態に大きな変化はなかった。 処置後、貧血は改善し肝機能を含め血液検査所見に異常なく11日後に退院したが、虚血によると思われる十二指腸狭窄を来し、6日後に再入院となった。絶食、輸液等の保存的治療により軽快し、再入院から31日後に退院した。緒   言症   例画像所見と治療経過

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