南予医学雑誌20巻
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-56-南予医誌 Vol.20 No. 1 2020 卵巣腫瘍により水腎症をきたした一例において、腟分泌物の塗抹標本と子宮頸部細胞診から放線菌と診断し、抗菌薬投与により良好な経過をたどった一例を経験した。骨盤放線菌症はしばしば浸潤癌と誤認されやすく、拡大手術が行われる結   語から、腫瘍を形成する骨盤放線菌症は悪性腫瘍との誤診が多く、拡大手術が行われることも少なくない。外科的治療により摘出した検体から放線菌が検出されて初めてその診断に至る例が多く報告されている。加藤ら3)は卵巣・卵管膿瘍の診断で単純子宮全摘術、左付属器切除術癒着剥離術を施行しその摘出標本から放線菌が検出された症例について、確定診断後に改めてIUD抜去時に施行された捺印細胞診を再検討したところ、放線菌と考えられる菌塊を多数認めたと報告した。このように、培養と同時に細胞診を行なっても、放線菌は同定困難な例も少なくない。細菌培養や細胞診で放線菌は検出されにくいため、IUD使用歴などから本疾患を疑った場合には自施設の細菌検査部や病理部にその旨を一言伝えることが重要である。 治療としてはペニシリン系抗菌薬の大量長期投与が原則とされているが、本邦の報告5)では投与量、投与期間にかなりの幅がある。薬剤としてbenzylpenicillin potassium(PCG)が第一選択とされており、投与量は80~1200万単位/日(常用量60~240万単位/day)とされている。次に多用されているpiperacillin sodium(PIPC)の筋注/静注の投与量は2~4g/day(常用量と同様)、また ABPC投与の報告もあり投与量は4g/dayとなっている。投与期間についてはこれらのいずれの薬剤においても1~6週間と幅があり、症例ごとに臨床症状や臨床所見の経過を見ながら判断されているものと思われる。静脈投与(もしくは筋注)後はペニシリン系抗菌薬の経口投与へ切り替え、多くの場合6~12ヶ月を目標に行われている。症例によっては抗菌薬投与によっても効果が乏しいこともあり、その場合は外科的切除の併用を考慮すべきである。抗菌薬不応例の原因は、広範囲にわたる組織硬結と病巣への血流不良のため、薬剤の病巣移行が不十分となる場合が多い。本症例ではABPC4g/dayを静注で1週間投与後、AMPC2g/dayを半年間投与し、良好な経過をたどることができた。 近年、骨盤内炎症性疾患(Pelvic Inflammatory Disease:PID)の原因としてIUD装着と関連した放線菌症が注目され、産婦人科診療ガイドラインー婦人科外来編2017でも取り上げられている。IUD装着後は位置の確認、部分脱落や穿孔の有無などを観察するため、装着後の初回月経後、3ヶ月後、(6ヶ月後)、12ヶ月後、そして1年を超えて継続する場合には1年ごとの定期診察が勧められる6)。IUD挿入期間が長期であるほど骨盤放線菌症の感染率は上昇する7)~9)ことも知られ、本症例でも20年以上の使用歴と以降定期健診未受診であったことから、原因として放線菌を疑うことが可能であった。先述の通り、本疾患は悪性腫瘍との鑑別が難しいとされているが、問診からIUD使用歴を聴取できれば鑑別に挙げることは可能である。診断に至れば抗菌薬投与で良好な経過をたどる例が多い。

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