南予医学雑誌20巻
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-55-南予医誌 Vol.20 No. 1 2020(表1)入院後経過 放線菌はActinomyces属の嫌気性グラム陽性桿菌で、口腔内や気管、消化管内に常在している。炎症性変化や外傷などにより粘膜損傷が起こると組織内に侵入し、感染に進展した場合は慢性化膿性肉芽腫性病変を形成する。感染部位としては顔面・頚部(40~60%)が多く、次いで胸部(20~30%)、腹部(10~20%)に好発し、腹部では回盲部感染が最も多い1)。骨盤内の感染は稀であるが、骨盤放線菌症の罹患女性の多くがIUDの長期使用歴があり、関連が示唆されている。感染経路として子宮頸部や傍結合織へは主に粘膜損傷による直接侵入、子宮付属器ら骨盤腹膜へは主に経卵管性感染が考えられる2)。 症状としては発熱、下腹部痛、不正出血など非特異的なものが主であり、血液検査では白血球やCRPの上昇など炎症性反応が見られる。また、放線菌は特異的な蛋白分解酵素を放出しIUDで損傷考   察を受けた組織内深部に浸潤するため、画像上浸潤癌に酷似した所見を呈する。この組織破壊的に進展する特徴により、尿管浸潤による水腎症や、直腸粘膜浸潤などによる便秘、イレウス症状など、先述した以外にも多彩な臨床症状を示すことがある。検査としては細菌培養検査や子宮内膜もしくは頸部細胞診が挙げられるが、その陽性率はいずれも高くはない。細菌培養検査は子宮内腔から腟または子宮頸部に排出された分泌物を、子宮頸部細胞診は粘膜表面を擦過して得られる細胞を対象としていることから、組織内に進展した放線菌症によりこれらの検査が陽性となる確率は極めて低いとされる3)。Hagarら4)はIUD装着者50名から細菌培養検査と頸部細胞診を施行し、放線菌の陽性率を比較し培養検査の陽性率2%に対し細胞診では8%と報告している。この結果は放線菌検出の方法として培養検査より細胞診の方が優れている可能性を示唆しているが、その陽性率も8%と決して高い数字ではない。これらの理由

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