南予医学雑誌20巻
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-52-南予医誌 Vol.20 No. 1 2020 放線菌はActinomyces属の嫌気性グラム陽性桿菌で、骨盤内感染においてはIUDとの関連が示唆されている。骨盤放線菌症は慢性化膿性肉芽腫性病変を形成し、その特徴から組織破壊的に浸潤するためしばしば悪性腫瘍と誤認されやすい。また、細菌培養検査や細胞診などでの検出率が低く、その診断は困難である。過去の報告では悪性腫瘍と診断され拡大手術を施行し、その摘出検体から放線菌が検出され確定診断に至った例も少なくない。今回、卵巣腫瘍により水腎症をきたした一例において、腟分泌物の塗抹標本と子宮頸部細胞診から放線菌を認め、放線菌症の診断のもと抗菌薬投与により良好な経過をたどった一例を経験したので報告する。【患 者】62歳 女性【妊娠分娩歴】3回経産【既往歴】20年前にIUD留置(以降定期検診未受診)【現病歴】数日前から発熱と右下腹部痛が出現し近医内科を受診した。腹部単純CT検査で右付属器領域の腫瘤性病変を指摘され、同部位より頭側の右尿管拡張と右水腎症を認めた。右卵巣癌の尿管浸潤疑いで当科紹介受診となった。【入院時現症】身長 156.0㎝、体重 55.0㎏。体温 37.7℃。脈拍 78/分、整。血圧 110/64㎜Hg。SpO₂ 99 %(自発呼吸、room air)。腟鏡診:黄色帯下中等量あり。腟部は易出血性で腟壁にIUDのtailを確認。内診:子宮、右付属器に軽度圧痛を認めた。【検査所見】血液所見:WBC 13940/μL(Se 78.0%、Eo 0.0%、Baso 0.0%、Ly 15.0%)、RBC 457万/μL、Hb 13.6 g/dL、Plt 45.7万/μL、LDH 167 U/L。序   言症   例免疫血清学所見:CRP 5.76 mg/dL、CEA 1.5 ng/mL、CA19-9 13.2 IU/mL、CA125 13.2 IU/mL。経腟超音波断層法:子宮は後屈、腫大。子宮腔内にIUDを認め背側にshadowを伴っていた。右付属器領域に充実部を伴う31.6×29.9㎜の腫瘤性病変を認めた。腹部単純CT検査:子宮右側に45㎜大の腫瘤を認め、周囲脂肪織の軽度濃度上昇や毛羽立ちを伴っていた。腫瘤より頭側の右尿管拡張と右水腎症を認めた(図1)。骨盤造影MRI検査:子宮は腫瘤状に腫大し、病変は右付属器領域に連続していた。一部は膿瘍形成や壊死が疑われた。腸管の一部は病変に向かって引き連れ、癒着が疑われた(図2)。腹部超音波検査:右腎に3度水腎症を認めた(図3)。子宮頸部細胞診:陰性(Negative for intraepithelial lesion or malignancy:NILM)、炎症性背景の中に扁平上皮化生細胞散見し、放線菌と思われる集塊を認めた。腟分泌物塗抹検鏡:放線菌の菌体を認めた(図4)。以上より骨盤放線菌症による腫瘤を疑い抗菌薬による治療的診断を行うこととした。【入院後経過】入院1日目よりABPC4g/dayの点滴静注を開始した。入院3日目には解熱し、7日目の血液検査で炎症反応が改善(WBC5400/μL、CRP1.01mg/dL)していたため、入院8日目よりAMPC 2g/dayの内服へ切り替えた。その後も全身状態良好で入院10日目に退院した(表1)。退院後は外来フォローとし、1週間後の腹部超音波検査で右水腎症は2度まで改善し、その後2ヶ月、3ヶ月、5ヶ後にもフォローを行ない再燃なく経過している(図5)。また、3週間後に再度MRI検査を施行し、腫瘤はほぼ消失しておりその後5ヶ月後のフォローでも再燃を認めていない(図6)。抗菌薬は合計半年間の投与で終了した。

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