南予医学雑誌20巻
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-39-南予医誌 Vol.20 No. 1 2020 梅毒は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)を病原体とする性感染症であり、抗菌薬の開発以来激減したが、近年本邦では性行動の自由化に伴い増加傾向を見せている。梅毒患者は症状の見られる部位によって、泌尿器科、皮膚科を受診することが多いが、口腔咽頭病変や頸部リンパ節腫脹が見られた場合耳鼻咽喉科を受診することがある。今回我々は頸部リンパ節腫脹を主訴とした梅毒性リンパ節炎、咽頭梅毒を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する。【症 例】21歳、男性【主 訴】左頸部腫瘤【現病歴】平成29年11月頃から咽頭痛、鼻汁などの感冒症状が出現し、12月上旬に頸部腫瘤が出現したため近医耳鼻咽喉科を受診した。CT検査で両側の深頸部に腫脹したリンパ節を累々と認めた。可溶性IL-2受容体も高値であったため悪性リンパ腫も疑われ12月21日に精査加療目的で当科紹介受診となった。【既往歴】特記事項なし【生活歴】不特定多数との性交渉歴なし、特殊浴場の利用歴なし【初診時所見】 前口蓋弓から後口蓋弓、口蓋扁桃にかけて乳白斑を認めた(図1)。口唇、舌、喉頭には異常を認めなかった。左頸部に2cm程度の腫大リンパ節を触知した。は じ め に症   例【血液検査所見】 WBC 6,160/μl、RBC 5.32×106/μl、Hb 14.9mg/dl、Ht 44.4%、PLT 26.8×104/μl、CRP 0.75 mg/dl、SCC 0.7ng/ml、PR3-ANCA(-)、MPO-ANCA(-)、抗核抗体(-)、可溶性IL-2受容体 746U/ml、T-SPOT(-)【造影CT所見】両側深頸部に腫大したリンパ節を複数認める(図2)。【頸部エコー所見】両側頸部に最大で長径2cm程度のリンパ節を累々と認める。【経 過】 咽頭の粘膜病変から中咽頭の腫瘍性病変や何らかの特異的な感染症が疑われたため口蓋扁桃の組織生検と咽頭スワブによる細菌検査をおこなったが、病理所見では炎症性変化、細菌検査は口腔常在菌の検出のみだった。腫大したリンパ節の穿刺吸引細胞診検査では異型細胞を認めなかった。確定診断のために頸部リンパ節生検を予定し術前検査を施行したところ、定量RPR 74.7 R.U、定量TPHA 15009U/mlと梅毒血清反応が高値を示し梅毒感染が明らかとなった。後に詳細な問診で平成29年8月頃に陰茎の腫脹が見られ、近医での抗生剤加療で軽快した経緯があったことが判明した。以上より梅毒第2期と診断され、ABPC2000mg+プロベネシド750mg/dayで治療が開始された。また、HIV感染の合併は認めなかった。 治療開始後1週間で咽頭の粘膜疹は消失し、治療開始後14週間で頸部リンパ節を触知しなくなり、梅毒血清反応は定量RPR 1.1R.U、定量TPHA 1601U/mlと減少し、現在に至るまで再発を認めていない。

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