南予医学雑誌19巻
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南予医誌 Vol.19 No. 1 2019-82- 吉田浄水場は吉田町立間地区の山間部に位置し,吉田町と隣町の三間町のおよそ6,700世帯に水を供給している施設である。 これにより起きた断水によって,吉田町ではおよそ1カ月間大変な苦労をすることとなる。その後停電も発生し,電気と水という重要なライフラインが途絶することとなった。 しかし,この時点で断水や停電について不安を感じる余裕は一切なく,目の前に起きている災害に対応するのが精一杯であった。 巡回先の地域には高齢者が多く,私たちの活動も高齢者への対応が多くなった。足の不自由な方を背負っての避難や,難聴の方には筆談で避難の呼びかけを行うなど苦労することも多かったが,地域住民の協力もあり事故を起こすことなく活動を続けることができた。 午後2時ごろ,防災士の方からおにぎりと水の差し入れを頂いた。私たちはこの日初めての食事となったが,ここまで空腹やのどの渇きを感じてはいなかった。 その後も雨は降り続いた。私たちは被害の大きな地域を中心に巡回を行った(図8)。しかしその中には,停電と断水に加えて自宅への浸水があるにもかかわらず,避難を拒否される住民もいた。 日が傾きかけた頃,上位本部から部長に連絡が入った。それは上記のような危険性の高い地域の住民に対し,強制的に避難を行うというものであった。これは住民の安全はもちろん,消防団員を守るためにも適切な判断であったと思う。しかし,これまで行ってきた受動的な避難支援とは違い,こちらから避難を強制しての支援活動となるために,これまで以上に慎重になる必要があった。 この時の私たちは,早朝から活動を続けていたにも関わらず,疲労を一切感じないという不思議な状態であった。加えて,土砂崩れや冠水地域での活動を続けていたために危険に対しての感覚が麻痺しているとも感じられた。私たちはこの状態で勢いのままに避難活動を行えば二次被害の出る可能性が高くなると考え,ミーティングを行うことにした。 ミーティング内容は以下の通りである。【現場・避難者に関して】◦ 膝上まで冠水しており,流れは非常に速い。◦  泥水で足元が見えないため,掴まるところがないと歩行は困難である。◦  避難対象者は5世帯で19名おり,小児や高齢者など介助が必要な方もいる。【役割分担に関して】◦  体力的に余力のある者から活動チームを編成し,その中で現場指揮者を任命する。◦  部長と残りの団員により,詰所内に本部を設置する。◦  本部と現場との連絡は現場指揮者が行う。(図8) 泥水に浸かり巡回を行う団員

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