南予医学雑誌19巻
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南予医誌 Vol.19 No. 1 2019-72-序言 Wernicke脳症は,チアミン欠乏により発症する急性の代謝性脳症である。大部分がアルコールに起因するものであるが,23%にアルコールに関連しない非アルコール性Wernicke脳症がみられる1)。アルコール以外にチアミン欠乏に陥る原因としては摂取不足,吸収低下, 分解亢進,消費増大, 排泄亢進2)およびチアミン・トランスポーター遺伝子変異3-4)が挙げられる。 今回,短期間の極端なダイエットを契機に発症し,早期診断・治療することのできた非アルコール性Wernicke脳症の症例を経験したので報告する。 【症 例】80歳代 男性【主 訴】意識障害,歩行困難,複視【現病歴】高血圧で近医通院中。受診10日前に近医で浮腫と肥満を指摘され,アムロジピン5mgをカンデサルタン4mgに変更,メインテート0.25mgとスピロノラクトン25mgが追加された。同時に極度の食事制限(朝は食パン1枚のみ,1日3杯のコーヒーと昼夕は野菜ジュースのみ)も開始した。食事制限開始6日後から歩行時のふらつきが出現し, 受診前日には物が二重に見えるという訴えがあり,傾眠傾向も認めるため当院を受診した。【既往歴】気管支喘息,本態性高血圧【内服薬】プレドニゾロン2.5mg,ツロブテロールテープ2mg,ビソプロロール0.625mg,スピロノラクトン25mg,カンデサルタン4mg,ジフェニドール75mg,ベタヒスチン12mg,ボノプラザン10mg,セレコキシブ200mg【家族歴】なし【生活歴】喫煙歴:なし,飲酒歴:なし,嗜好: コーヒー1日3杯【アレルギー】なし【現 症】身長160cm,体重72 kg,BMI24kg/m2意識レベル:GCS13(E3V4M6),起立困難体温37.1℃,BP166/67mmHg,HR76bpm,RR13回/min,SpO2 98%(room air)神経学的所見:左眼内転位,明らかな眼振なし,異常感覚・深部腱反射亢進なし頭頚部:球結膜黄染なし,眼瞼結膜貧血なし,甲状腺触知せず, 頸静脈怒張なし胸部:整,過剰心音なし,呼吸音:副雑音なし腹部:平坦,軟,圧痛なし四肢:浮腫著明【来院時検査所見】 心電図は異常なし, 胸部レントゲン写真では心拡大がみられた。経胸壁超音波検査では高拍出または低心機能の所見はなく, 脚気心を疑う所見は認められなかった。血液検査(表)では,肝機能,腎機能は正常。 また,頭部MRI検査(図1)ではT2強調画像・FLAIRで第3脳室周囲,中脳水道周囲,視床内側および乳頭体に高信号域がみられた。拡散強調画像では明瞭ではなかった。【経 過】 極端なダイエットを行っていたこと,意識変容・複視・失調性歩行といった特徴的な症状および典型的な頭部MRI画像所見よりWernicke脳症と診断し,チアミンの経静脈的投与を開始した。まずチアミンを経静脈的に100mg/day投与し,併せてビタミンB1,2,6,12混合剤の経静脈的投与も行った。またビタミン含有量の多い食事を提供し,栄養指導を本人と家族に行った。入院後3日目には複視改善みられ眼位も正常となり,意識レベルも改善が見られた。入院1週間後に採血した血清チアミンが18.5ng/mL(正常値:21.3-81.9ng/mL)と

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