南予医学雑誌19巻
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南予医誌 Vol.19 No. 1 2019-64-plateauを認め,また両心室の拡張期血圧は上昇しており,その差は5mmHg未満であった。以上のことから,本症例はCPに伴う3対1伝導の心房粗動と急性心不全,うっ血肝と診断した。 CPの病因としては,結核やウイルス性あるいは特発性心膜炎後,開胸術後や放射線照射後に起こることが多いとされているが,本症例では三連痰とT-SPOTは陰性であったため,結核の関与は極めて低いと考えられた。また開胸術や放射線照射を施行された治療歴はなく,抗核抗体や各種自己抗体は陰性であり,膠原病性心膜炎は否定的であった。ウイルス抗体価については測定できておらず,ウイルス感染の影響は完全には否定できないが,先行する感染歴として小児期での肺吸虫症が確認された。小児期に肺吸虫症罹患以外に胸腔内感染症の既往も確認できなかった。ウエステルマン肺吸虫抗体陽性であったことから,肺吸虫感染が収縮性心膜炎を発症に関連した可能性が示唆された。 ウエステルマン肺吸虫をはじめとする肺吸虫は,第2中間宿主であるサワガニやモクズガニ,待機宿主であるイノシシの肉を経口摂取することで感染する2)。摂取されたメタセルカリアは小腸内で脱嚢し,腹腔内に侵入した後に横隔膜,胸腔内,そして肺実質内へと寄生する。肺組織で成虫になると嚢胞を形成し,周囲の組織に炎症をきたすとされている3)。従来,肺吸虫症によって心膜炎に至ることは稀と考えられており,その頻度は2%との報告がある4)。一方で,北米での肺吸虫症では胸部CTで62.5%に心膜肥厚,37.5%に心嚢液貯留が確認され,決して希ではないことも報告されている5)。小沢らは多彩な症状を呈した宮崎肺吸虫症に対してプラジカンテルを投与したところ,一過性に心膜炎が出現したことを報告6)している。Azherらは住血虫症に対してプラジカンテルを投与後に多発性漿膜炎を呈した症例を報告7)しており,その原因として吸虫死滅後に虫体抗原が放出されたことによると推察している。このように肺吸虫感染による急性期心膜炎の報告は散見されるが,慢性期収縮性心膜炎の報告はPubMed検索の範囲では見つけることができなかった。(表2)抗寄生虫抗体スクリニーング検査

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