南予医学雑誌19巻
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南予医誌 Vol.19 No. 1 2019-54-序言 解剖学的無脾症は侵襲性肺炎球菌感染症のリスク因子とされる1)。一方で,脾臓低形成を原因とする侵襲性肺炎球菌感染症の報告も散見されるが2)-12),解剖学的脾臓低形成と脾臓機能低下の関連は確立した知見ではない。 今回我々は,脾臓低形成を伴った糖尿病合併侵襲性肺炎球菌感染症を経験した。これを契機に,過去10年間の当院における侵襲性肺炎球菌感染症症例における脾臓容積と死亡率との関連,および糖尿病合併の有無と死亡率との関連についてカルテベースで後方視的に検討したので報告する。【症 例】60歳代男性【主 訴】発熱,悪寒,関節痛【現病歴】 5日前から続く感冒症状,下痢,および腰背部痛のため紹介元を受診。炎症反応の著明高値,肝機能障害,および腎機能障害を認めたため当院に救急搬送された。【既往歴】45歳:2型糖尿病     58歳:高血圧症【アレルギー】なし【内服薬】アジルサルタン,ビルダグリプチン/メトホルミン塩酸塩,サリチルアミド,アセトアミノフェン【身体所見】身長167cm,体重65kg,BMI23.3意識清明,BT38.9℃,BP145/105mmHg, HR133回/min,RR23 回/min,SpO2 94%(鼻カニュラ3L) 眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜充血・黄染なし,頸静脈怒張なし,心音:整,過剰心音なし,呼吸音:左中肺野~下肺野でcoarse crackles聴取,腹部平坦,軟,圧痛なし,四肢浮腫なし,皮膚:熱感,冷感なし,皮疹なし,表在リンパ節触知せず【来院時検査成績】 心電図は異常なし,胸部レントゲン写真では浸潤影や心拡大は認めなかった。胸腹部単純CTで脾臓低形成を指摘された。Light Speed Ultra16,Light Speed VCT XT VT2000 1.25mm Ziostation 2 Ver 2.4 3.0を用いて脾臓容積を測定したところ38.78ccと低容積であった。血液検査では白血球数上昇,核の左方移動とCRP高値,血小板減少,肝機能障害,腎機能障害,および凝固機能異常を認めた(表1)。血液培養と喀痰培養から肺炎球菌が検出され,侵襲性肺炎球菌感染症と診断した。【経 過】 初期治療としてMEPM+VCM+LVFXを開始したが,血液培養の結果からABPCにde-escalationした。治療開始後も腰痛が持続するため2回目の脊椎MRIを施行したところ化膿性脊椎炎が判明した。整形外科でL5/S1の左片側椎弓切除とデブリードマンを行い,術後3日間の持続洗浄も行った。抗菌薬は術後2か月半ほど投与し,炎症反応が陰性化したため中止した。中止後11か月経過しているが炎症の再燃なく経過良好である。 (表2,3)に2008年から2017年における当院で経験した侵襲性肺炎球菌感染症の本症例を含む25症例の概要を示す。少数例の解析ではあるが,当院で経験した侵襲性肺炎球菌感染症は60歳以上が24例(96%)と高齢者に多かった。合併症としては肺炎が最も多く14例(73.7%),以下髄膜炎2例(10.5%),特発性細菌性腹膜炎1例(5.3%),急性中耳炎1例(5.3%),脊椎炎1例(5.3%)

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