南予医学雑誌19巻
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南予医誌 Vol.19 No. 1 2019-14-などで市民に貢献することを促す災害時規定がある。今回は勤務交流の範囲を圏域内3市1町に拡げ,また公立病院のみならず,様々な設立背景を有する医療施設の職員を含めた勤務交流となれば,より有効なマンパワー確保につながるのではないかと考え,提案した。 調査票は圏域災害医療対策会議の長である八幡浜保健所長から発送いただいたが,回答率は64.7%にとどまった。回答率が低迷した理由は不明であるが,南海地震の脅威がまだまだ具体的なものでなく,災害時の通勤困難などについてイメージできない関係者が少なくないことがうかがわれた。ただし,過半数の施設長が勤務交流に前向きであること,勤務交流に理解を示す職員が圏域内にかなりの人数存在することの2点から,八幡浜・大洲圏域災害医療対策会議などで災害時勤務交流を実現するための協議や調査を継続することには価値があると考えられた。 災害時の他施設への派遣あるいは受け入れの条件として上げられた各項目を解析することは,勤務交流の具体的な計画を策定する際に参考になると考えられる。まず,災害時の他施設勤務を望む職員が所属長などへ事前届け出をして許可を得ておくことで,所属施設は災害時に実際に確保できる職員数に関してより精度の高い見通しを持つことができる。また,災害時に活動する可能性のある他施設の災害訓練や災害講習会に参加することで圏域内の人的ネットワークが拡がり,実災害時の共同作業が円滑になる。また他施設の訓練や講習会の特長を取り入れることによって,より高いレベルの災害準備につながる。さらに,災害時に市町などが地域内に開設する予定の救護所への貴重なサポート人員(特に看護師)として期待することができる。一方,他施設勤務中の怪我や医療事故への補償などが受入れ側の負担とならないよう,行政による補償の約束を取り付けておくことも重要と考えられる。 以上,地域内の有床医療施設において,大災害時,他施設での勤務に関する意識調査を行った。有床医療施設の施設長の過半数が災害時の勤務交流を許容し,また,他施設勤務に前向きな職員が300人に上ることが判明した。今後,職員・施設のマッチング,各施設の参集規定の見直し,他施設で効果的に活動するための事前交流などについて検討を進めて行きたい。謝辞:今回の調査に協力をいただいた,圏域災害医療対策会議,八幡浜保健所などの関係各位に感謝申し上げます。 参考文献1)  越智元郎:病院事業継続計画(BCP)策定を前提とした災害時の通勤に関する調査,日本集団災害医学会誌(投稿中)2)  越智元郎,川口久美,石見久美ほか:大地震・大津波を想定した災害時の通勤に関する調査,日本集団災害医学会誌2016;20:54 3)  川口久美,石見久美,山本尚美ほか:大災害時の他施設臨時勤務に関する院内意識調査,日本集団災害医学会誌 2017;21:2994)  地震調査委員会:主要活断層帯の長期評価による地震発生確率値の更新内容(2018年2月現在)    https://www.jishin.go.jp/main/chousa/18feb_kakuritsu/p02_koshin.pdf

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