南予医学雑誌 第18巻
73/91

南予医誌 Vol.18 No. 1 2017-72-またMylonaら8)は血管内で増殖した腫瘍細胞が血管内皮障害を起こしたことによる血管透過性の亢進,あるいは血管閉塞による静水圧の上昇によるものと述べている。本症例でも軽度のクレアチニンの上昇を来しているが全身浮腫の原因とは考え難く,Mylonaが報告したように血管内の腫瘍細胞による血管透過性の亢進および静水圧上昇が全身の血管で引き起こされた結果全身浮腫を来したと考える。 確定診断は生検によってなされ,骨髄,肝臓,脾臓,皮膚,肺,および脳などからの生検の報告があるが,採取した部位の腫瘍量が少なく診断に至らない場合も少なくない。本症例においても骨髄生検にて血球貪食像を認め,悪性リンパ腫の骨髄浸潤が疑われたが診断には至らなかった。一方,皮疹を認めない場合でも,上腕,腹部,および大腿など3か所以上から生検を行うランダム皮膚生検が診断に有用であると報告されている12)。Matsueらによると,IVLBCLの症例12例中10例(83.3%)でランダム皮膚生検が陽性であり,同時に施行した骨髄穿刺・骨髄生検では12例中11例(91.6%)で骨髄浸潤を認めた13)と報告している。本症例では骨髄穿刺・骨髄生検では悪性リンパ腫が疑われたものの診断には至らず,最終的にランダム皮膚生検を組み合わせることでIVLBCLと診断することができ,両者を併用して行うことが重要と考えられた。 治療法としてはR-CHOP療法(rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, prednisolone)が施行されることが多いが,Shimadaらによるとリツキシマブ併用化学療法を受けている群における3年中枢神経系再発リスクは22%であり14),本症例を含めR-CHOP療法により寛解が得られた症例においても注意が必要である。 今回我々は全身浮腫という非典型的な症状で発症したIVLBCLを経験した。全身浮腫という比較的よく遭遇する臨床症状の鑑別疾患の一つとして,心疾患,腎疾患,肝疾患,内分泌疾患等に加え非常に稀ではあるがIVLBCLも考慮する必要があると考えられた。参考文献1)  Murase T, Yamaguchi M, Suzuki R, et al.:Intravascular large B-cell lym-phoma(IVLBCL): a clinicopatho-logic study of 96 cases with special reference to the immunophenotypic heterogeneity of CD 5. Blood 2007; 109: 478-485.2)  星智子,藤井善憲,奥山俊介 他:肝生検が診断に有用であった血管内リンパ腫の2例.日消医 2014;111:1433-1440.3)  神原留美,堀井新,大崎康宏 他:急性副鼻腔炎症状で初発し,不幸な転帰を取った血管内リンパ腫症例.日耳鼻 2015;118:770-775.4)  横田昌,浦崎祐二,布村眞季.多彩な臨床症状を呈し,皮膚生検にて診断を得たアジア変異型の血管内大細胞型B細胞リンパ腫の1例.日本プライマリ・ケア連合学会誌 2010;33(4): 378-382.5)  Bilgili S, Yilmaz D, Soyoral Y, et al. Intravascular large B-cell lymphoma presenting with anasarca-type edema and acute renal failure. Ren Fail 2013; 35(8): 1163-1166.

元のページ  ../index.html#73

このブックを見る