南予医学雑誌 第18巻
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南予医誌 Vol.18 No. 1 2017-6-くなることを経験している。 自殺未遂者やその家族が「援助を望む期間は限られている」のである。「もう死ぬしかない」から「もう大丈夫」へと未遂者本人が変化する間,ベッドサイドで家族が「大丈夫でしょうか?よろしくお願いします」とオロオロしている時期に,支援者は関わらねばならない。時が経てば,本人や家族の「見られたくない,知られたくない,触れられたくない」過去の問題になっていく。 自殺未遂は,「再発・既遂のリスクを著しく高めること」を家族に伝え,予防の支援者としての保健師を紹介する。地域保健師は,後々も必要となる重要な支援者であるので,できるだけ早くにベッドサイドで共感的に関わり,本人と援助者とのつながりをつくる必要がある。傷の癒えぬ生々しいときに『時と場』を共有することで,「1年以上続く必要のある在宅訪問」のベースとなる信頼関係ができてくるのだと思う。3) 自殺の対人関係理論The Interpersonal Theory of Suicide5)(図7) 自殺未遂者に関わるとき,時が過ぎると未遂者やその家族が援助を求めなくなる上述の現象について,いくつかの理由があると思われる。 「Joiner の自殺の対人関係理論」という説がある。「自殺をやり遂げる・自殺によって死ぬことができる人」は,その能力(自殺しきる「獲得された自殺潜在能力」)と(死にたい,自殺したいという)自殺願望との双方が必要だ。自殺願望は,「所属感の減弱」と「負担感の知覚」の重なりで生じる。致死的・重篤な自殺行動は「自殺の潜在能力」に自殺願望(「所属感の減弱」と「負担感の知覚」)の3要因が重なると生ずるという理論である。 自殺未遂者が救急入院すると,オロオロと困惑しながら,未遂者に対する心配・関心・非攻撃的な(優しい)関わりや反省などを見せる家族の姿に出会う。それらは未遂者の「人とのつながり」を改善させ,孤立感を癒やし,「所属感の減弱」を弱めたり,「負担感の知覚」の一時的な修正・縮小が(図7)自殺の対人関係理論(Joiner et al., 2009)

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