南予医学雑誌 第18巻
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青石、他:子宮体癌術後化学療法中に繰り返す偽膜性腸炎を呈した1例南予医誌 Vol.18 No. 1 2017-65-されている2,3,4)。その他,65歳以上の高齢者,ICU入室歴,経鼻チューブ挿入,手術後,免疫不全者,肥満,プロトンポンプ阻害薬(PPI)投与中などが危険因子として挙げられている1)6)。 偽膜性腸炎の臨床症状は多彩である。下痢症状が主体であるが,程度の軽いものから粘液を伴うもの,さらには重篤なものまで多彩である。白血球増多を伴い,ときに著しい増加をきたす。合併症として,蜂窩織炎,敗血症,膿瘍,関節炎,脱水,低蛋白血症,電解質異常などをきたす。重症例(3%)では広範な潰瘍形成を伴い血性下痢となる。最も重篤な例では中毒性巨大結腸症(toxic megacolon)を呈し,特に高齢者では致死的な病態となりうる。 本症の診断はC.difcile毒素を証明して確実となる。そして,診断が確定するか,または疑われる場合には,まず第1に発症の契機となった抗菌薬の投与を可能な限り中止することである。その上でC.difcileの除菌治療としてメトロニダゾール1.0~1.5g/日(分3~分4)を7~14日間内服させる。メトロニダゾール内服が無効な場合や服用不能な場合にはバンコマイシン0.5~1.0g/日(分4)を7~14日間投与する。重症例ではバンコマイシン1.0~2.0g/日(分4)の10~14日間内服が推奨されており,さらに状態が悪化した例ではメトロニダゾールの静脈内投与やバンコマイシンの注腸投与が有効とされる1)。 本症は20~30%近くの患者が再度症状を繰り返すと言われており,1回目の再燃時には初回治療のレジメンと同様の対応を行うが2回目の再燃時にはバンコマイシンの投与が推奨される。その他,毒素吸着法や乳酸菌製剤などのprobiotics,免疫グロブリン投与や糞便注入法などの有効性も報告されている1,5)。 本症例では術後化学療法が2クール終了し好中球減少をきたしていたところで本症の初発症状が認められた。最初は好中球減少に伴う感染性腸炎と判断し,セフメタゾールナトリウムを一回投与したが本症を疑いすぐに中止し,それ以降抗菌薬の投与はなかった。本症は前述の通り抗菌薬投与下,または抗菌薬投与後がリスクになり,96%は抗菌薬投与後14日以内に発症するが,抗菌薬投与後3ヶ月以内であればリスクとなりえると言われている6)。本症例では手術の際に,手術当日から術後2日目までの3日間セフメタゾールナトリウム2g/day予防投与されている。最初の下痢症状が出現したのは術後76日目であり抗菌薬投与後3ヶ月以内に該当するため,頻度としては少ないが手術時の抗菌薬投与が原因となった可能性も考えられる。また同時期に腸炎発症者はいなかったが,入院歴があるため院内感染も否定はできず,症状出現中は個室管理としスタッフや面会客に手洗いを励行した。その後2回再発を繰り返しているが,どちらも抗がん剤による好中球減少時に発症しているため,抗がん剤投与が本症発症の誘因となっていることが示唆された。 婦人科悪性腫瘍に対する抗がん剤による偽膜性腸炎の発生については,パクリタキセルを含む化学療法患者において2.3%に偽膜性腸炎が発生したという報告が,またシスプラチンを使用した卵巣癌患者のうち2.1%に偽膜性腸炎が発症したという報告があり4),薬剤の添付文書に副作用として記載がされている。本症例で使用したドキソルビシンでの偽膜性腸炎発症例の報告は

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