南予医学雑誌 第18巻
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青石、他:子宮体癌術後化学療法中に繰り返す偽膜性腸炎を呈した1例南予医誌 Vol.18 No. 1 2017-63-序言 偽膜性腸炎(pseudomembranous coli-tis:PMC)はClostridium difcile(C.difcile)感染による臨床病態であり,何らかの原因で腸管内の細菌叢が抑制され,C.difcileが過剰に増殖し毒素産生を起こすことで生じる疾患である。典型例では,抗菌薬使用後1~2週間後に下痢,発熱,腹痛などをきたし,程度の軽いものから重篤なものまで多彩であるが,最も重篤な例では中毒性巨大結腸症を呈し致死的な病態ともなりうるため早期発見と早期対応が必要とされる。 今回,子宮体癌の術後化学療法中に偽膜性腸炎を繰り返し治療に難渋した1例を経験したので報告する。症例【患 者】76歳 女性【妊娠分娩歴】2回経産【既往歴】高脂血症【現病歴】5年前より当院内科で膵嚢胞をフォローされていた。その際撮影した腹部造影CT検査で子宮体部の悪性腫瘍が疑われ20XX年8月30日に当院を紹介受診した。子宮内膜組織診で類内膜腺癌G1であり,術前の画像検査より子宮体癌Ⅰ期と診断した。高齢でありリンパ節郭清は行わず,単純子宮全摘術ならびに両側付属器切除術を施行した。摘出標本での病理診断にて,腫瘍は子宮頚部間質から子宮体部筋層深部,漿膜まで浸潤し脈管侵襲が認められた。リンパ節郭清を行っていないため正確な病期決定は不可能であったが,日本産科婦人科学会の手術進行期分類でⅢA期以上であり,術後補助化学療法としてAP療法(ドキソルビシン+シスプラチン)を6クール行う方針となった。【経 過】術後36日目に入院管理の下AP療法1クール目を施行した。投与量は高齢であることと腎機能(CCr 67㎖/分)の面からドキソルビシンを標準投与量の80%の60㎎/body,シスプラチンを標準投与量の75%の49㎎/bodyとした。投与後特に有害事象を認めず,2クール目以降は外来にて化学療法を行うこととなった。 AP療法2クール目day3~4(術後67~68日目)に水様下痢を認めたが同時期に使用した下剤の影響と判断し経過観察したところ自然軽快した。その後day13(術後76日目)に頻回の水様下痢を認め受診しその際血液検査にて白血球数990/μl(好中球数333/μl)と好中球減少を認めたため入院管理とした。好中球減少症と消化器症状に対して入院後G-CSF製剤とセフメタゾールナトリウム(CMZ)1gを1回投与したが,入院翌日便中のCDトキシンが陽性であり偽膜性腸炎による下痢が疑われ,CMZを中止しメトロニダゾール(MNZ)750㎎/dayの内服を開始した。治療開始翌日には下痢は止まりその後退院した。 AP療法3クール目(術後92日目)はドキソルビシンを標準投与量の70%の55㎎/body,シスプラチンを標準投与量の70%の45㎎/bodyに減量し施行したが,day12(術後103日目)に発熱,下痢,好中球減少(120/μl)と便中CDトキシン陽性を認め,前回同様偽膜性腸炎と判断しMNZの内服を開始した。MNZ内服終了時も下痢症状が継続していたためバンコマイシン(VCM)0.5g/dayの14日間内服に切り替えたところ,次第に下痢症状は軽快した。 減量にもかかわらず有害事象が発現するためレジメンをweekly TC(パクリタキセ

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