南予医学雑誌 第18巻
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中川、他:Luminal HER2 乳癌の増加と広がる治療選択南予医誌 Vol.18 No. 1 2017-33-はじめに HER2(human epidermal growth factor receptor 2)は,細胞表面に存在する受容体型チロシンキナーゼの一つである。HER2は正常細胞にもわずかに発現しているが,乳癌をはじめ胃癌や卵巣癌などの癌組織で過剰発現し,細胞増殖や癌化に関与している。乳癌では,20~25%の症例にHER2過剰発現を認めるが,細胞増殖が早く予後不良とされる1)。HER2蛋白過剰発現や遺伝子増幅の有無は,トラスツズマブなどの抗HER2療法の適応かどうかを決定づける効果予測因子であると同時に,それ自体が予後予測因子でもあり,乳癌診療において非常に重要なものである2)。HER2蛋白過剰発現の判定に免疫組織化学染色法(immunohistochemistry;以下IHC法),HER2遺伝子増幅の判定に蛍光in situハイブリダイゼーション法(Fluorescence in situ hybridization;以下FISH法)が用いられる。わが国では,IHC法を第一選択とするのが一般的であり,IHC法スコア2+症例はFISH法によるリフレックステストで再検査されるが,そのHER2陽性率は20%前後の報告が多い3)。 2013年にASCO(American Society of Clinical Oncology)/CAP(Collage of American Pathologists)のHER2検査ガイドライン4)の改定が行われ,IHC法およびISH法による検査の判定基準に変更が加えられた。この動向を踏まえ,乳がんHER2検査病理部会においても,2013年ASCO/CAPガイドラインに準拠したHER2検査ガイド(乳がんHER2検査病理部会)5)の改定が行われた。HER2検査ガイドの改定以降,IHC法スコア2+と判定される症例が増加しており,それに伴いHER2陽性症例も増加している。 一般的にHER2陽性乳癌は,エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体などのホルモン受容体が陰性または弱陽性,Ki-67やgradeが高いことが特徴であるとされてきたが,最近,これらを満たさない再発リスクの少ないHER2陽性乳癌が増加しており,治療方針に悩まされることが多い。今回,HER2検査ガイド改定以降に当院で治療した乳癌を対象に,HER2検査の成績やサブタイプを検討したので報告する。対象と方法1)対 象 2014年4月から2017年3月までに乳癌と診断され,当院で治療した浸潤性乳癌262例(非浸潤性乳癌を除く:2014年度79例,2015年度81例,2016年度82例)を対象とした。性別は全例女性であった。2)方法および判定方法 標本は,生検組織を10%中性ホルマリンにて最低6時間以上固定し,パラフィン包埋したものを使用した。まずはIHC法を行い,スコア2+と判定された症例については,リフレックステストとしてFISH法を追加した。IHC法はHercep testⅡ(Dako)を使用し,日本病理学会認定病理専門医が染色強度を観察し,判定した。FISH法は㈱BML総研に委託した。㈱BML総研は乳がんHER2検査病理部会メンバーであり,ヒストラHER2 FISHキット(常光)を用いて,標準化された方法でFISH法の実施が可能である。FISH法では,浸潤部分における20個の癌細胞でHER2および第17番染色体セントロメア領域(centromeric probe for chromosome17;以下CEP17)の

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