南予医学雑誌 第18巻
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曽我、他:救急現場DNAR対応の現状南予医誌 Vol.18 No. 1 2017-29-れに蘇生の可能性があり,遭遇した市民や救急隊による的確な対処が期待される。しかし,癌末期患者や高齢者など一部の傷病者においては,CPAに陥った後,蘇生処置が求められないことがある。この場合,119通報自体が実施されず,家族が見守る中で息を引き取り,かかりつけ医によって死亡確認されるような流れが想定される。 しかしわが国の実際の救急の現場では,DNAR意思がありながら119通報されたり,何の情報もないまま蘇生処置を行いながら搬送した医療機関で,担当医から患者の事前の希望を知らされることがある。 同様の混乱が南予地域でも発生しており,南予地域メディカルコントロール協議会としてその実態を調査し,必要な対応を検討することになった。この結果,当地域のCPA傷病者のうち家族の希望を含むDNAR要請をしている者は20%以上に上った。そして,これらの傷病者のうち,何らかの根治治療不能な疾病を有する者はむしろ少数で,2/3は高齢者や全身衰弱を理由に,多くは家族の判断でDNARの方針が選ばれていた。 書面でのDNAR要請があったのに119通報,病院搬送された5例のうち,2例は施設からの通報であった。急変直後,職員はDNAR指示を思い出せず,とっさにCPRを開始したものとみられる。しかし,それでは何のためのDNAR要請なのか。ベットサイドに何らかの表示をしておくなどの工夫も必要ではないか。いったんCPRを開始または引き継いだ後にも,書面によりDNAR意思を確認できた場合には,電話などで家族と連絡を取った上で,不搬送対応にすることが妥当な場合もあり得る。なお,施設においてDNAR意思に沿って看取りを行うためには,施設の責任医師の呼び出し体制を整えるなどの準備が必要である。 3例目は自宅からの119通報であった。突然の窒息という事態は,異物除去できれば発症前の機能で生存できるため,DNARを適応せずに蘇生対応することは間違いではない。一方,現状ではCPR非実施・不搬送とするのにDNARに関する書面の存在は必須である。今後,書面がないにもかかわらずDNARを求められた場合の対応について,法的根拠をもとに地域で対応を統一することが必要ではないだろうか。 また,不治あるいは末期の患者,衰弱した高齢者などに対してかかりつけ医師から本人または家族にDNARの説明をして,希望がある場合は,書面として残してもらう。例えば,地域や医師会での取り組みによって,各関係機関が共通認識を持ち円滑に活動できるようにするべきと思われる。各地域においてDNARに関する社会的合意の形成を試みるために,高齢者施設や公民館等で説明や提案を行う価値がある。一方,南予地域には患者(または代理人)および担当医師が連名で署名するDNAR指示書8)を運用している救急告示病院がある。また岐阜県のように,DNARに関する救急隊活動手順を統一9)している組織もある。これらを参考にして南予地域メディカルコントロール協議会として統一書式を用意するのは有用であろう。 以上,当地域ではDNAR意思を有するかなりの比率の傷病者が,蘇生対象患者として救急搬送されていることが判明した。メディカルコントロール協議会として,国や学会10)の趨勢も確認しながら,DNAR指示書の統一化や普及,対応手順の作成などをはかる必要があると考えられる。

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