南予医学雑誌 第18巻
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南予医誌 Vol.18 No. 1 2017-1-  宇和島の自殺対策 - 自殺のハイリスク者への地域包括的支援 -   総  説 渡 部 三 郎1),田 所 貞 雄1),山 内 宏 冶1), 毛 利 貴 子2),川 中 真 紀2),廣 瀬 浩 美3), 谷 村 千 里3),梶 川 直 裕4),佐 尾 貴 子4) 1)(公財)正光会 宇和島病院 2)市立宇和島病院 地域連携室 3)愛媛県宇和島保健所 4)南予子ども・女性支援センター (南予医誌 2017;18:1-16.)はじめに 宇和島の自殺死亡率(人口10万人あたりの年間自殺者数)は高値が続いている。愛媛県の保健所別自殺統計では,宇和島保健所管内は長期間にわたりワースト・ワンを維持してきた。この自殺死亡率の高さ・自殺死亡者数の多さは,圏域内医療従事者の知らない事実である。 日本の自殺を概観すると,自殺者はH10年に急増し,年間3万人超となり大きな社会問題となった。その後に自殺対策基本法,自殺総合対策大綱が成立し,国を挙げての自殺対策がとられることとなったが,H24年まで自殺者3万人超は14年間続いた。H27年には2万4千人台まで減少したが,しかし,その数は急増前の数値に戻ったにすぎず,2017年版の自殺対策白書1)によれば日本の自殺死亡率は18.9(2017年)であり,世界で6番目の高い自殺死亡率にとどまっており,依然として喫緊の社会的課題である(各国の2012-2013年の自殺死亡率は,フランス15.8,米国13.7,ドイツ12.5,カナダ11.4,英国7.5,イタリア6.4)。また,若者の自殺死亡率は,徐々に増加しており,10代から30代の死因の第一位を占めている。 自殺の危険因子には,精神疾患(とくにうつ病と依存症),性別(男性),高齢,児童虐待歴などが言われており,なかでも自殺未遂歴は,最も明確な自殺の危険因子とされている。先行研究では,自殺未遂者のおおよそ10人に1人が自殺で死亡することが示されている。 また,自殺既遂者の9割に精神医学的受稿日 平成29年11月1日受理日 平成29年11月17日連絡先 〒798-0027 愛媛県宇和島市柿原1280 (公財)正光会 宇和島病院 渡部 三郎

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