南予医学雑誌 第18巻
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渡部、他:宇和島の自殺対策南予医誌 Vol.18 No. 1 2017-15-であった個人情報保護法の壁を乗り越え,その後の地域ケア,退院後の地域での支援と見守りに移行できた。支援チームとして機能することで,各資源・組織の限界を乗り越えることができた。 三次救急との連携から,今後はさらに二次救急医療機関(病院)および一次救急医療機関(診療所)への自殺未遂者支援の連携拡大が必要となろう。 さらに,小児科における児童・生徒の自殺未遂者支援は,小児科医の市教委への働きかけなどもあり,各学校での研修に広がり,小学・中学・高校教員のゲートキーパー養成の機会につなげることができた。地域ケアの拡がりの端緒となることを願いたい。 ゲートキーパーの役割とは,自分の周りの人の落ち込みや不調に「気づき」,その人に「声をかけ」,心の痛みに「耳を傾け」,問題があれば一人で抱え込まず,応援を求め「つなぐ」こととされている。そして,命の大切さを伝え,つないだ後も「見守る」ことであるが,これらは,人と人との関係を築くことであり,地域づくりの過程そのものであろう。「コミュニティーをつくる意識」を一人ひとりがもち,そこに自然な喜びや満足を見出す(つながり,わかちあうことによるヒト,ホモ・サピエンスの脳内報酬系の活性化)ことになれば幸いである。 裏を返せば,人と人とのつながりを取り戻すことが,自殺対策の根本にあることになる。自殺対策の本質は,時代が必要としている地域づくり・コミュニティーの再生や地域包括ケアネットワークにつながっている。謝辞 今夏,宇和島市立病院のランチョンセミナーで講演の機会を与えていただいた。それをきっかけに本誌での発表を地域スタッフとともに行えることは,望外の喜びである。市立宇和島病院長や声をかけていただいた福井聡先生に感謝を申し上げる。参考文献1)  厚生労働省『自殺対策白書 平成29年版』.日経印刷,20172)  Bertolote JM, 高橋祥友 他(訳):各国の実情にあった自殺予防対策を.精神医学 2007,49,547-552 3)  張賢徳:精神医療と自殺対策. 精神神経学雑誌 2012,114:553-5584)  Bo Runeson,Mats Samuelsson,Irene Stolt,et al. ,内村 直尚(監訳):自殺願望のある患者へのケア 自殺予防先進国スウェーデンの対策マニュアル.毎日コミュニケーションズ, 東京,20085)  Thomas E. Joiner Jr ,Kimberly A. Van Orden ,et al.,北村俊則(監訳):自殺の対人関係理論 予防・治療の実践マニュアル.日本評論社,東京,20116)  日本アルコール関連問題学会HP(www.j-arukanren.com/file/al-hakusyo.pdf)より   簡易版「アルコール白書」7)  吉本尚:知っておきたいアルコール問題への対応方法~SBIRT.JIM,2013;23:9

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