南予医学雑誌 第17巻
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南予医誌 Vol.17 No. 1 2016-74-えられた。 咀嚼筋腱・腱膜過形成症の画像診断としては,MRIが最も適切であると考えられており,咀嚼筋腱・腱膜はMRI画像上で低信号領域として描出される6)。撮像方法について箕輪は,T1WIとT2WIに加えてGRE法を用いて撮像し,腱膜の描出能はGRE法が最も優れ,T1WI,T2WIの描出能はほぼ同程度であったと報告している4)。自験例においても同静磁場強度で比較した場合,GRE法で撮像した場合の腱膜の描出能が最も優れていた。 臨床用3.0T高磁場MRI装置は2003年に薬事認可され一般臨床病院にも広く普及してきており7)2012年の統計では国内において約300台が臨床用装置として稼働している。 1.5T-MRIと3.0T-MRIを比較した場合磁場強度が2倍となるが,信号強度は磁場強度の2乗に比例するために,信号強度は理論的には4倍になる。一方で雑音は被検体から出る熱ノイズやMRI装置の電気回路から発生するノイズなどが静磁場強度に比例して上昇するために,理想的な画質の向上とはならないが,実質的には信号強度が増強されるため,より高画質の画像を撮像することが可能である。  咀嚼筋腱・腱膜過形成をMRI画像にて診断するためには,腱・腱膜と筋肉のコントラストの差を強調して描出するための撮像条件が必須であると考えられる。MRIの撮像条件の最適化を行うには信号対雑音比(以下SNR)等の影響を考慮する必要がある。SNRは画像描出に必要な信号と不必要な信号との比率を表したものである。自験例では3.0T-MRIを用いることによりSNRの高い画像を得ることができた。 咀嚼筋腱・腱膜過形成症の自験例2症例とのMRI所見の比較目的に,健常者の側頭筋および咬筋部のMRI撮像を行った。撮像に使用したMRI装置は,症例1と同様で3.0T-MRI装置を使用した。撮像方法はGRE法とした。撮像条件はT1WI水平断(写真6A)冠状断(写真6B)ともに,TR 480msec,TE 15msec,加算回数1回,ip angle 25°とした。 小林ら6)の報告と同様にMRI所見として咬筋前縁に帯円三角形状の低信号領域と咬筋表層に薄層の低信号領域が認められた。咀嚼筋腱・腱膜過形成症の2症例と健常者を比較した場合,腱・腱膜過形成症例では,咬筋前縁付近の腱・腱膜は肥厚し辺縁部から筋内に木の根状に陥入する低信号領域が多数認められた。また1.5T-MRIと3.0T-MRIを比較した場合,1.5T-MRIにおいても十分に咀嚼筋腱・腱膜過形成症の診断が可能であるが,3.0T-MRIにおいてはより鮮明な腱・腱膜の描出が可能となり診断精度が向上していた。咀嚼筋腱・腱膜過形成症におけるMRIによる画像診断においては健常者との対比や多数症例のMRI所見,手術所見を比較検討することにより過形成の有無や程度について精度の高い知見が得られることが期待できる。結語 3.0T-MRIは筋層内の腱膜が1.5T-MRIに比べ,より鮮明に描出された。3.0T-MRIは,咀嚼筋腱・腱膜過形成が疑われる症例に対して有用であると考えられた。 本論文に関して,開示すべき利益相反状態はない。

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