南予医学雑誌 第17巻
74/90

南予医誌 Vol.17 No. 1 2016-72-症例2患 者:58歳,女性初 診:2014年1月下旬主 訴:開口障害既往歴:特記事項なし家族歴,生活歴:特記事項なし現病歴:40歳代から徐々に開口障害が出現するも放置していたが,歯科治療に困難を来たすとのことで当科を受診した。現 症:全身所見:身長160 ㎝,体重48㎏で栄養状態は良好であった。局所所見:顔貌は左右対称で顎関節雑音,顎関節部痛は認めなかった。下顎角はやや過形成であった。自力最大開口量は22㎜であった。手指による強制開口時両側咬筋部に筋痛が認められたが,顎関節部に疼痛は認められなかった。画像所見:パノラマX線写真,3DCT写真にて筋突起の過長は認められなかった。単純CT写真にて両側下顎頭の形態的変化や下顎頭と顎関節硬組織との骨性癒着は認められなかった。顎関節部と側頭筋および咬筋部のMRI撮像を行った。撮像に使用したMRI装置は,Magnetom Avanto(Siemens社,ドイツ)で,超電導磁石型装置で静磁場強度は1.5Tであった。撮像方法はGRE法とした。撮像条件は,T1WI水平断(写真5A)冠状断(写真5B)ともに,TR 480msec,TE 15msec,加算回数1回,ip angle25°とした。いずれの撮像条件もスライス厚5㎜とした。 MRI撮像の結果,両側顎関節関節円板前方転位および両側咬筋前縁部および咬筋内に腱膜様の低信号領域が認められた。臨床診断:両側顎関節関節円板前方転位,咀嚼筋腱・腱膜過形成症処置および経過:両側顎関節関節円板前方転位に対してスプリント装着およびパンピングマニピュレーションを施行するも開口障害が改善されなかったために,2014年5月全身麻酔下に症例1と同様に両側咬筋腱膜切除術および筋突起切離術を施行した。術中最大開口量は50 ㎜であった。 術後4日目より万能開口器を使用した開口訓練を開始した。開口訓練開始時の自力最大開口量32㎜,強制開口量45㎜であった。術後3カ月経過後,自力最大開口量40㎜であり術後経過は良好である。考察 開口障害は,顎関節に何らかの原因がある関節性と,顎関節以外に原因がある非関節性に大別される5)。咀嚼筋腱・腱膜過形成症は開口障害を呈する疾患の1つであるが,顎関節関節円板の前方転位を伴っていることがある。咀嚼筋腱・腱膜過形成症に対する手術を実施しても,関節円板のロック症状が残されたままでは十分な開口量が得られない可能性があると考えられる。これまでわれわれが経験した関節円板の前方転位を伴う症例では,咀嚼筋腱・腱膜過形成症に対する手術後には,顎関節症Ⅲb型による開口制限を上回る十分な開口量が得られている。咀嚼筋腱・腱膜過形成症の症例で,開口量が25㎜以下では下顎頭の前方滑走運動が十分ではないので,関節円板の前方転位を伴っていても復位するか否かの判断をすることができない。自験例においては術後の顎関節MRIを撮像していないので関節円板の動態については不明である。咀嚼筋腱・腱膜過形成症と確定診断ができた場合,顎関節円板の前方転位を伴っていても,咀嚼筋腱・腱膜過形成症に対する手術を優先させて実施すべきであると考

元のページ  ../index.html#74

このブックを見る