南予医学雑誌 第17巻
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南予医誌 Vol.17 No. 1 2016-64-かし術後約1ヶ月経過しており,さらに膵液漏を発症していたため腹腔内の強固な癒着が想定された。加えて仮性動脈瘤は膵液漏による腹腔内膿瘍近傍に存在し,仮性動脈瘤からの出血コントロールができなければ術中死の可能性も存在した。ここで我々は,腹腔動脈根部へアプローチし,血管造影での血流動態により脾動脈根部をコントロールできれば総肝動脈への血流を遮断できると考えた。そして腹腔動脈へのアプローチには開腹経路より後腹膜経路を選択した。結果的に腹腔動脈,脾動脈を遮断し,総肝動脈への血流をコントロールし,胃十二指腸動脈断端の仮性動脈瘤の血流を遮断することが可能であった。本症例では術後の肝膿瘍,肝不全,脾壊死の合併はいずれも認めなかった。肝への血流は大動脈から右下横隔膜動脈を経由して維持されていること,脾への血流は上腸間膜動脈から側副血行路で維持されていることを確認した。 大動脈周囲血管へのアプローチには腹膜経路と後腹膜経路が存在し,各々利点と欠点が存在する8)。腹膜経路は迅速に大動脈周囲に到達しやすく,広い視野が得られる。また腹腔内臓器の検索が可能であり,腹腔内病変を伴うもの,診断が不確かなもの,腎動脈下から両腸骨動脈までの操作が必要なものは腹膜経路の方がよい。しかし開腹により腸管麻痺が遅延することがあり,癒着性イレウスの可能性も存在する。一方後腹膜経路は開腹の既往のある症例,腹腔内の癒着が予想される症例,ストマがある症例,馬蹄腎に適している。しかし腹腔内臓器の検索ができないこと,反対側の腎動脈,腸骨動脈の視野が悪いことが難点である。心臓血管外科領域では後腹膜郭清を伴う開腹手術歴のある腹部大動脈瘤破裂手術を後腹膜経路で行い良好な結果を得た報告もみられる9)。後腹膜経路は心血管外科領域では汎用される手技ではあるが,外科領域ではなじみが薄い手技である。当院では外科と心臓血管外科が同一医局内に存在し,診療領域の垣根を越え多数の共同手術を行っている。このような環境が今回の患者救命の一助になったものと確信している。結語 膵頭十二指腸切除術後に発症した腹腔動脈閉塞を伴う仮性動脈瘤破裂を救命した1例を報告した。腹腔内の高度の癒着が予想される症例に対する大動脈周囲血管へのアプローチには,後腹膜経路が有用であった。参考文献1)  Tani M, Kawai M, Yamaue H, et al.: Intraabdominal hemorrhage after a pancreatectomy. J Hepatobiliary Pan-creat Surg. 2008;15:257-261.2)  古山貴基, 伴大輔, 工藤篤,他: カバードステントで止血できた動脈再建膵頭十二指腸切除後出血の1例。 日臨外会誌 2012; 73:2357-2362。3)  Roulin D, Cerantola Y, Demartines N, et al.: Systematic review of delayed postoperative hemorrhage after pan-creatic resection. J Gastrointest Surg. 2011;15:1055-1062.4)  Machado MC, Penteado S, Montagni-ni AL, et al.: An alternative technique in the treatment of celiac axis stenosis diagnosed during pancreaticoduode-nectomy. HPB Surg. 1998;10: 371-373.

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