南予医学雑誌 第17巻
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日下部、他:診断にMRIが有用であった腹痛発症の腎腫瘍内出血の一例南予医誌 Vol.17 No. 1 2016-55-(図2)単純CT多発腎嚢胞と多結節状の腎腫瘤影:A~D,傍大動脈リンパ節腫脹:A(矢印),胆石多数:B 嚢胞性変化に加え,腫瘤性病変には一部出血を疑う信号変化を認めた(図3)。腹痛の主座は腎臓にあると判断し,右腎腫瘍・腫瘍内出血による腹痛として泌尿器科にコンサルトし入院,翌日準緊急的に手術(右腎開腹摘出術)となった。術後,腹痛は改善し,第22病日に独歩退院した。 なお,後日術中採取組織より,病理学的に乳頭型腎細胞癌と診断され,壊死と出血を伴う腫瘍性病変が確認された。考察 腎細胞癌は無症状のまま検診や他の目的で行われた画像検索で発見されることがほとんどである。教科書的に古典的三徴(血尿,側腹部痛,腹部腫瘤)が言われているが,全てを呈するのは10%程度とされる3)。そのため早期発見は難しく,腎細胞癌の症例の20-30%が来院時にはすでに遠隔転移 ABCDを来している4)。 腹痛は救急外来で頻回に出くわす主訴の一つである。その原因頻度としてはEskelinenらの報告によると虫垂炎(30.2%),胆嚢炎(10.1%),小腸閉塞(4.3%),急性膵炎(2.2%)など消化管,肝胆膵が関連していることが多い5)。本症例のように腎腫瘍・腫瘍内出血が腹痛を契機に発見される頻度の少なさが伺える。なお,自然破裂を契機に発見される腎細胞癌の頻度は0.3~0.6%とする報告もある1)2)。 本症例においては痛みの局在,胆道系酵素の上昇,CT上の胆石の存在に加えて疾患頻度のため,腎臓を痛みの原因として特定するまでに時間を要した。 なお,Otsukiら6)によると透析患者の腎自然破裂の報告の集計では,ほとんどが嚢胞性腎疾患を合併していた(後天性嚢胞性腎疾患合併 83.3%, 常染色体優性多発性嚢

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