南予医学雑誌 第17巻
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菅、他:体腔液細胞診におけるセルブロック作製の有用性について南予医誌 Vol.17 No. 1 2016-17-はじめに 胸水,腹水および心嚢液などの体腔液細胞診検査においては,細胞塗抹標本をパパニコロウ染色やギムザ染色などを実施し細胞形態を観察して診断を行うが,組織球や反応性中皮細胞などとの鑑別を有する症例や出現した癌細胞の組織型,その原発巣の推定検索が容易でないことが多くある1)。このような形態学的に診断困難な症例に対して,体腔液の残余検体を用いてセルブロックを作製して免疫染色を併用することによって鑑別や診断が可能になる場合がある。セルブロックとは,液状検体から様々な方法で細胞を集めて,組織標本作製と同様の方法でパラフィンで包埋した細胞検体のことである。セルブロック作製法には遠心管法,寒天法,血液凝固因子法,アルギン酸ナトリウム法2),クロロホルム重層法,ナイロンメッシュ法,コロジオンバッグ法,グルコマンナン法3)など数多くの方法が考案されている4)~9)。今回我々は,簡単に行えるスポイトを用いた方法10) 11)を採用し,その作製方法を呈示するとともに,27症例の検討を行い,その中の5例の診断の流れについて報告する。対 象 当院で2011年1月から2015年12月までに細胞診判定に苦慮した体腔液27例である。 その内訳は,胸水16例,腹水8例,心嚢液3例であった。セルブロック作製方法 細胞診検査用に提出された体腔液を1,500rpmで5分間遠心する。パパニコロウ染色やギムザ染色などの標本作製後の残余検体について,10%ホルマリン液を5~10倍量加えて混和する。液が無色透明の時にはマイヤーのヘマトキシリン(2倍法)で着色し室温に静置,固定を行う。通常業務で使用しているスポイトを利用して沈渣物を吸引し,量が多い時には複数のスポイトに分ける。先端を火焔で熱し密閉し,遠心管へ入れ1,500rpmで5分間再遠心する。 包埋カセットに入る長さに切断し,パラフィン自動包埋装置にかける。この時,各液相の浸透をよくするためにスポイトの側面を数カ所,短く切れ込みを入れ加工しておく。また沈渣物がバラバラになった時に他のカセットへの混入を防ぐため,包埋カセットをサンプルメッシュパックに入れておく。包埋装置終了後,スポイトの密閉した片方を切り落とし内容物を押し出し,パラフィンで固める。その後は通常の組織材料と同じ工程操作を行い,薄切,染色する。(図1)結果と症例 セルブロックを施行した27例の診断結果の内訳は,陽性が24例(腺癌17例,扁平上皮癌1例,悪性中皮腫1例,悪性リンパ腫4例,骨髄腫1例),疑陽性が1例(腺癌),陰性が2例であった。疑陽性例は採取量が少量で集細胞法を行っても細胞成分が少なく,セルブロックの作製が困難であった。塗抹標本では低分化腺癌を少数認めていたが,原発臓器の推定には至らなかった。今回の検討で組織型の診断,原発巣推定に有効であった代表的な5症例を提示する。症例1.60歳代,男性,肺乳頭状腺癌臨床症状:右胸痛,体動時の呼吸困難の症状があり,右胸水貯留を認めたため胸水細胞診が施行された。

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