南予医学雑誌 第16巻
88/118

南予医誌 Vol.16 No. 1 2015-86-易で止血効果も高いことから頻用されている6)。患者の凝固能に依存しない塞栓物質(N-butyl 2-cyanoacrylate; NBCA)が選択される場合もあるが,今回のようにマイクロコイルを使用するのが一般的と思われる。腎動脈は終動脈であるので出血部位を跨いだisolation techniqueは必ずしも求められないが,塞栓した領域は梗塞となるため,できる限り出血点までカテーテルを近づけてコイルを留置する8)。本症例でも塞栓した領域は梗塞となっていた。 腹部外傷では多臓器損傷を合併していることが多く,造影CTで手術やTAEを要する受傷臓器を的確に診断することが重要である。鋭的腎損傷の約60%に多臓器の損傷を合併しており,肝損傷,血気胸,脾損傷,腸管損傷の順に多かったとの報告もみられる9)。本症例は当初,右腎以外に腸管や肝臓,右副腎,下大静脈等の損傷も危惧されたが,幸い,包丁刺入創は右腎下極で留まっており,肝や腸管など主要臓器の損本症例は造影CTによりⅢb型の腎損傷(複雑深在性損傷)と診断し,TAEを実施した。 TAEの適応については基本的に鋭的腎損傷と鈍的腎損傷とに違いはないと考えられるが,鋭的腎損傷ではGerota筋膜や腎被膜によるタンポナーデ効果は通常期待し難く,出血が広がり易い2)。本症例も救急搬入時,出血性ショックを呈していた。また鋭的腎損傷の経過中,遅発性に仮性動脈瘤や動静脈瘻を形成したとの報告もあり6,7),鈍的腎損傷よりも積極的にTAEを考慮するべきかもしれない。 鋭的腎損傷では鈍的腎損傷と比べ,比較的狭い範囲に組織や血管の損傷が集中する。本症例でも包丁が刺入した右腎下極の動脈は全て破綻しており,計3本の分枝塞栓を要した。 TAEに用いられる塞栓物質として,マイクロコイルやゼラチンスポンジ,無水エタノール等がある8)。マイクロコイルには血栓形成を促す作用があり,扱いが比較的容(表) 日本外傷学会・腎損傷分類2008Ⅰ 型被膜下損傷 (subcapsular injury)  a被膜下血腫 (subcapsular hematoma)  b実質内血腫 (intraparenchymal hematoma)Ⅱ 型表在性損傷 (superficial injury)Ⅲ 型深在性損傷 (deep injury)  a単純深在性損傷 (simple deep injury)  b複雑深在性損傷 (complex deep injury)【appendix】腎茎部血管損傷(pedicle vessel)はPVとして付記する。

元のページ  ../index.html#88

このブックを見る