南予医学雑誌 第16巻
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南予医誌 Vol.16 No. 1 2015-80-析導入を回避したい」との目標ができた。 糖尿病の治療は食事療法,運動療法,薬物療法を3本柱とする4)。特に食事療法はすべての病期の基本となる4)5)。糖尿病の食事療法については民間療法も含め諸説あるが,正しい食事療法の知識を与えることが肝要である。さらに,糖尿病などの慢性疾患の管理には患者の自己管理能力が必要である6)ことはいうまでもないが,現実には糖尿病患者の半数以上が自己管理に関する十分な教育を受けていない7)。食事に関する自己管理能力は栄養食事指導の回数を重ねる必要性が知られており,回数が多いほど理解度が増し,HbA1cの改善がみられることが報告されている8)。本症例の場合,遠方の患者であることから頻回の指導は困難であると考えられた。また,合併症の発症で精神的な衝撃を受けており,食事療法の多くの知識を一度に理解するのは困難な状態であった。このような種々の制約がある中で,一定の治療効果を挙げるためには患者心理の変化ステージと介入方法が有効であると考えられた。 本症例のように,腎症3期以降に進行した場合は,治療用特殊食品や減塩食品の使用など特殊な食品が必要となるため,管理栄養士の支援が不可欠である。しかし,実際には,腎症2期以降になってからこれらの知識を得る場合がほとんどである。この対応手段として,糖尿病腎症の病期についての教育を,集団栄養食事指導,いわゆる糖尿病教室などで糖尿病の発病早期から行うことが重要だと考える。予備知識があれば病期が進行しないよう食事療法の実行に対するモチベーションがアップし,たとえ腎症が発症しても患者の精神的な衝撃を和らげ,療養に取り組むことが可能と考えられる。結語 糖尿病腎症4期と病期が進行してから初めて栄養食事指導を受けた患者を経験した。指導回数は少なかったが,患者心理ステージ別の介入方法に則ることで行動変容効果的とされる介入法具体的な介入等前熟考期①感情や考えを聞く②合併症の感情的体験③一般的な情報の提供・自己流の食事療法について傾聴する。・人工透析とはどのようなものかを情報提供する。・透析を導入した場合はあと何年後にどのような生活になるか考えさせる。熟考期①行動変化による肯定的な側面(利益)と否定的な側面(障害・不利益)を明らかにし、利益の認識を高めるか、障害の程度を減少させる。②セルフエフィカシー(自己効力感)を用いたアプローチ③家族の協力・食事療法を守ったことが症状の改善につながったことに気づいたことを賞賛する。・妻を栄養食事指導に同席するよう促す。・糖尿病教室への参加を勧めた。準備期①具体的な行動目標を設定し、成功すれば承認。段階的に目標を上げていく。②教育コース応用編・透析導入を回避したいという目標を自らが設定した。・腎機能はどの検査値で表されるのかを教える。・たんぱく質と食塩の制限が腎機能を悪化させないことを理解させる。(表3)患者心理の変化ステージと介入法(表3)患者心理の変化ステージと介入法

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