南予医学雑誌 第16巻
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永岡、他:胸部外傷後の続発性膿胸南予医誌 Vol.16 No. 1 2015-71-考  察: Shorrらによると胸部外傷後遅発性血胸とは, 受傷後24時間以降に出現する血胸とされ, 鈍的胸部外傷患者の2.1%に認められたと報告されている2)。 遅発性血胸のうち86%が受傷後4日以内に発症し3), その原因は体動, 咳嗽, 間欠的陽圧呼吸などが原因とされる4)。責任血管のほとんどが肋間動脈であり, 奇静脈や下行大動脈, さらには横隔膜からの出血報告もある5)。 鈍的外傷による多発性あるいは偏位を伴う肋骨骨折症例はリスクが高く, 受傷後数日間は遅発性血胸を念頭においた対応が必要とされる。加療については多くの症例で胸腔ドレナージでのコントロールが可能であるが, 大血管損傷が疑われる症例, 初期の出血量が1000㎖以上あるいはその後150~300㎖/時間の出血が2時間以上持続する場合は止血手術が必要とされている6)。 本症例は偏位を伴う多発肋骨骨折症例であり, 6日間の経過観察入院後に退院したが, 退院後の活動性亢進により遅発性血胸を発症したと考えられた。 またドレナージ開始当初に1000㎖近い血性胸水を認めたものの, その後の排液が急激に減少したため持続的な出血はないものと判断し, 保存的加療を行った。 出血源に関しては手術で明らかではなかったが, 肋間動脈からの出血あるいは下位肋骨骨折に伴う横隔膜からの出血が考えられた。 外傷に続発する急性膿胸の原因としては, 血胸からの二次感染や胸腔ドレナージによる逆行性感染などが挙げられる。本症例ではドレナージ以前から熱発や炎症所見を認めたため遺残血胸からの二次感染が疑われた。 外傷性血気胸の治療ガイドライン7)では, 胸腔ドレナージを行った後も遺残血胸が見られる場合は感染リスクを減らすため胸腔鏡下手術(Video-Assisted Tho-racoscopic Surgery:VATS)を3~7日以内に行うことを推奨しており, 遺残血胸は膿胸発症の高リスク因子として認識が必要である。  急性膿胸はⅠ期(滲出期), Ⅱ期(線維素膿性期), Ⅲ期(器質化期)に分類され, Ⅰ期からⅡ期へは2~14日で移行し, さらに21~28日を経てⅢ期に移行するとされている8)9)。 治療についてⅠ期では胸腔ドレナージや胸腔洗浄が有効とされているが, Ⅱ期へ移行するとフィブリン塊の析出に伴いドレナージ不良となる。近年、Ⅱ期症例あるいはⅢ期の早期症例に対して胸腔鏡手術が有効との報告が散見される10)11)。 また全身状態不良例に対し局所麻酔下で手術を行う報告もあり12),治療に難渋することの多い膿胸に対し治療戦略の幅が広がっている。 本症例については, ドレナージ不良になりⅡ期へ移行したと判断したため早期に胸腔鏡下手術を施行し, 術後4日目のドレーン抜去, 術後6日目に退院可能であった。 Striffelerらの報告では術後ドレナージ期間は平均4.1日, 術後在院日数は平均12.3日であり13), 本症例は諸家の報告に遜色ない結果であったと考えられる。 続発性急性膿胸に対してタイミングを逃さず手術をおこなうことが良好な感染コントロールと在院日数の短縮に寄与すると考えられた。

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