南予医学雑誌 第16巻
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南予医誌 Vol.16 No. 1 2015-44-はじめに ウイルス肝炎はウイルスに対する宿主の免疫反応の結果であり,ウイルスと宿主の一方を研究してもウイルス肝炎全体の把握は困難である。ウイルスに対する宿主の免疫応答の際,制御性T細胞がウイルスと宿主との長期間の共存に大きな役割を演じていることが明らかにされている。ウイルス肝炎が発症し終焉するとウイルスは血中から排除するが,肝臓・末梢血単核球,骨髄などの組織に長期間残存することが明らかとなってきた。 これまでB型肝炎ウイルスの既往感染者であると考えられていたHBs抗原陰性・HBc抗体陽性and/or HBs抗体陽性の健常者の肝組織中にはHBVが潜伏持続感染(オカルトHBV)しており,化学療法や免疫抑制剤によりHBVの再活性化(de novo B型肝炎)が生じる1)。 この問題を受け,HBV再活性化の予防ガイドラインとして厚生労働省より「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班」と「肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究班」が合同で「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」を2009年に発表した2)。しかし,医療者に周知できていないという問題があった。当院では,その対策として2011年12月よりHBs抗原・HBs抗体・HBc抗体の3項目をセット化し「免疫抑制・化学療法HBVスクリーニングセット」として院内通達をした。さらに2013年6月より陽性患者情報を主治医に当日報告を行い,合わせてHBV-DNA定量検査の追加を依頼する体制をとった(図1)。それぞれの測定法はガイドラインに準じ高感度法を使用した。現行試薬はECLIA法(電気化学発光免疫測定法)を原理とした「エクルーシス試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)」である。 今回当院における免疫抑制・化学療法により再燃化するB型肝炎対策についての現状を報告する。対象および方法調査期間: 2011年10月1日~2015年3月31日対象: 免疫抑制・化学療法前の患者283名(男性:121名,女性:162名)平均年齢65歳(男性:68歳,女性:63歳)依頼科別: 外科167件,血液内科82件,泌尿器科13件,消化器内科10件,整形外科8件,婦人科3件  「免疫抑制・化学療法HBVスクリーニングセット」の依頼数,陽性率,陽性患者の内訳,HBV-DNA定量検査提出率の調査を行った。結果 HBs抗原,HBs抗体,HBc抗体の何れか,もしくはともに陽性であった陽性者は103(図1)

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