南予医学雑誌 第16巻
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岡本、他:宇和島圏の小児医療南予医誌 Vol.16 No. 1 2015-9-② 乳幼児は通院の医療費が無料である地域が多く,気軽に夜間の受診をしやすい環境がある。③ 小児科を専門とする医師の診察を希望する声は大きいが,内科系に比べ,約1/6しかいない小児科医がそれらの需要に応えることは困難を伴う。④ 開業医や高齢医師や女性医師の中には,個々の事情のため夜間業務を嫌う傾向があり,更に人員の確保を困難にしている。  以上より,小児救急についての最大の問題点は,救急に対応する小児科医の不足であると考える。 宇和島圏の小児医療については,小児人口に対する勤務医と開業医の総人数は全国平均を少し上回っているが,高知西部を含めた医療圏の土地面積が広いこと,交通網が十分に発達していないことは小児医療体制を検討していく上での問題点の特徴といえる。また,全国的な傾向と同様に,夜間の救急業務を担当している医師は限られている。宇和島圏の小児科医の約1/3にあたる勤務小児科医が365日の救急を担当しており,一人当たりの時間外の拘束時間は月に約6日で110時間ほどである。一方,開業小児科医もおよそ月1回,日勤の日曜当番医を担当している。 また,他科を含めた宇和島圏の特徴として,広範囲の土地をカバーしている点があげられる。基幹病院の市立宇和島病院から,鬼北町,松野町,旧吉田町,旧三間町,旧津島町までは車でおよそ30分の圏内であるが,山村部・海岸部・諸島部などの僻地になると更に時間を要する。また,愛媛県最南の愛南町までは車でおよそ1時間を要する。高知県西部の医療圏では車でおよそ1時間から1時間半を要する。愛南町にある愛媛県立南宇和病院は常勤の小児科医が1名のみで,愛媛大学や市立宇和島病院の応援を受けながら,小児科医待機・全科当直の体制を敷いている。9)展 望 以上の通り宇和島圏の小児救急の現況が明らかになった。小児医療の診療体制を考える上で,最も優先順位が高い事項は時間外の救急に対してどのように対応するのかである。24時間,安定した時間外診療を提供するためには,それに対応できる小児科医の確保が,必須である。すなわち,基幹病院やサテライト病院にて,当番や待機が可能な小児科医をどれだけ確保できるかが重要である。そのため,一次救急への開業医の更なる参加や,小児救急の更なる集約化,アクセス手段の改善などが必要とされる。小児医療の充実には,マンパワーが必要とされるが,マンパワーの確保は容易ではない。現状では大学医局の協力の元に人員が確保されているが,地域の病院での勤務医のキャリアアップやモチベーションを保つことや地域の魅力をアピールすることも重要である。公立病院独自の人材確保や,病院や行政との連携,都会医師を呼び込むなど,様々なアイデアを出していく必要もある。他の地域とアイデアや経験を共有することも有意義であると思われる。 今後も更に少子化が進むと,小児科の採算性は低下していくと考えられる。時間外の小児救急を維持するために最低限の小児科医の確保が必要となるが,経営的な観点からは,補助金の確保や公立病院の更なる理解が必要となってくるかもしれない。また,地域住民の理解も重要である。両親の不安の解消と,時間外または小児救急への

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