南予医学雑誌 第16巻
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南予医誌 Vol.16 No. 1 2015-106-の向上にもつながっています。 一方で,連携先を限定した「スモールスタート」と「利用医からの口コミ」にもこだわりました。ICTに関する知識や理解度は各施設によって異なるため,ICTへの理解が深い医師や当院と親密な関係にある施設に限定した方が,相互にシステムの有効性を実感できると判断したからです。そうすることで,利用医から評判を聞いた他の医療機関もネットワークに参加してもらえるようになりました。このような取組が功を奏し,運用開始から4ヶ月で約40施設の賛同を得ることができました。 システムの課題 このシステムはまだまだ発展途上であり,課題は山積しています。システム面の課題としては,将来のリプレイスコストの確保のほか,ネットワークが全県下に拡充した際のランニングコストの負担のあり方などがあります。こうした課題については,国の補助金に依存しない安定した財源を確保し,いかに事業の継続性を確保するかが最も重要となります。また,運用面の課題としては,公開コンテンツの拡充のほか,セットアップが完了しているにもかかわらずアクセスがない利用医への対応や,介護分野へネットワークを拡充した際のエンドユーザーに対する情報リテラシー(活用する能力)や情報セキュリティの教育などの課題が残っています。これらの課題に対しては,このシステムに賛同している利用医などによる「きさいやネット連絡協議会(仮称)」を設置することで,検討を進めていきたいと考えています。今後の展望 次フェーズ(2016年度以降)では,在宅医療・介護分野への展開を見据え,調剤薬局や訪問看護ステーションなどを追加し,ネットワークの拡充を図っていく予定です。他地域のシステムでは調剤薬局へのカルテ公開(病名や処方歴など,医師に比して限定的コンテンツでの公開)も進んでおり,調剤薬局からの疑義照会が減少したとの報告もあります。このように,意外な効果が得られる可能性があることも,このシステムによる「情報共有」のメリットであると考えています。 また,診療情報を公開する地域連携ネットワークシステムには,1施設が公開している「1対N連携」という段階と,複数施設が公開している「N対N連携」(複数の情報公開病院との双方向性をもったネットワーク)という段階があります。今後の展望としては,2次医療圏以外の医療機関とも連携して「N対N連携」ができれば,「情報共有」の広域ネットワークが完成し,地域医療へ大きく貢献できると考えています。さらに2015年9月,当院の「きさいやネット」が本格稼働したことを契機に,県下全体に地域連携ネットワークを普及・推進していくための「地域医療ネットワーク勉強会」(県内主要医療機関が協働体制で取組むキックオフミーティング)が立ち上がりました。こうした動きは,「N対N連携」の構築に向けた流れを加速するものであり,今後の動向を注視するとともに当院も積極的に関わっていきたいと考えています(図4)。

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