南予医学雑誌 第16巻
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南予医誌 Vol.16 No. 1 2015-98-手 術; まず局所麻酔下に気管切開術を行ったのち,全身麻酔下に腫瘍摘出術を施行した。軟性内視鏡ガイド下に彎曲型喉頭鏡を用いて術野を展開した。輪状後部から左披裂部後方にかけて粘膜下腫瘍を認め,粘膜を切開すると黄白色の腫瘍を確認できた。基部は輪状後部を中心に広基性にあり,周囲粘膜と腫瘤を剥離しほぼ一塊として腫瘤を摘出した(図4)。粘膜に接する残存腫瘤は鉗子にて断片的に追加切除した。病理組織学検査(図5); 成熟脂肪細胞の増生からなる形態が主体であり,またspindle cellの増生や異型細胞は認めず,典型的な脂肪腫の所見であった。術後経過; 術後7日目に気切カニューレを抜去し,経口摂取を開始した。術前に見られた嚥下時のつまり感や嘔吐は消失し,気切口を閉鎖し退院した。術後3カ月目に食道透視を施行したが,バリウムの通過は良好であった(図6)。また,現在のところ明らかな再発は認めていない。考 察 下咽頭脂肪腫は比較的まれな疾患であり,腫瘍自体が軟らかく変形しやすい特徴を有する。そのため比較的無症状で経過することが多く,腫瘍が増大するに従って嚥下障害や嗄声,まれに呼吸困難を自覚するようになる1)-5)。腫瘍による気道閉塞のため窒息死に至る例も複数報告されており4)6),本症例のように腫瘍が声門部に進展した症例に対しては,気道確保を含めた早急な対応が必要である。 咽頭に生じる脂肪腫の多くは視診上,表面平滑な腫瘤としてみられ,他の腫瘍疾患や嚢胞性病変との鑑別には画像検査が有用である7)。一般にCTでは脂肪濃度と同程度で,内部が均一で低い陰影濃度を呈する。MRIではT1強調像,T2強調像でともに高信号でかつ皮下脂肪と同等の信号強度として描出される。一方,CT,MRIで内部不均一な像を呈する場合,脂肪肉腫との鑑別を要する8)。 治療は手術による完全摘出が原則である。手術方法としては直達鏡下での経口腔的な摘出術と外切開による摘出術が挙げられる。本症例では腫瘤の進展範囲や年齢を考慮し,前者を選択した。腫瘤が声門部に存在しており経口挿管が不可能であることから,気管切開術を併施した。腫瘤は輪状後部~披裂部に広基性の基部を有しており,粘膜下に進展していたが,ほぼ一塊として摘出できた。病理検査では典型的な脂肪腫との診断であったが,他の良性疾患に比べ比較的再発率が高く,また稀ではあるが繰り返し再発した症例から脂肪肉腫が発生した報告もあり9),今後も定期的な経過観察が必要である。まとめ・ 頸部食道まで広く進展し,さらに下咽頭より脱出して声門部に陥頓した,下咽頭脂肪腫の一例を経験した。・ 下咽頭脂肪腫は比較的まれな疾患であるが,時に気道閉塞により窒息に至る危険性があり,迅速な対応が必要である。

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