南予医学雑誌 第15巻
7/132

鹿田:造血器腫瘍治療の変遷南予医誌 Vol.15 No. 1 2014-5- 65歳以下の移植適応の初発例において,BD療法(ボルテゾミブ,デキサメタゾン)がVAD療法に比較して,寛解導入及び自家移植後の奏効割合が有意に優れていると報告された9)。また65歳以上の移植非適応の初発例では40年来標準治療とされてきたMP療法にボルテゾミブを併用することで,MP療法と比較して有意に奏効率,無増悪生存率,全生存率の延長が得られると報告された10)。再発・難治例に対しても,BD療法でこれまで広く行われてきた大量デキサメタゾン療法を上回る治療成績を得られるとされており,再発・難治例に対しても,ボルテゾミブが選択肢の一つとしてあげられる。 サリドマイドは1950年代に催眠鎮静剤として販売されたが,催奇形性の問題から一度各国で販売中止された。しかし,その後のウサギ角膜を用いた研究で,サリドマイドが血管新生を促進するbasic broblast growth factor (bFGF)やvascular endothe-lial growth factor (VEGF)の産生を阻害することが報告され,その間接的な血管新生阻害作用により,腫瘍細胞の血管新生も阻害すると報告された11)。また,多発性骨髄腫の患者の骨髄は微小血管が豊富であり,サリドマイドが多発性骨髄腫の患者に対して抗腫瘍効果をもたらすことが期待されてきた。これらを背景に行われた臨床試験の結果,サリドマイドの骨髄腫に対する有用性が報告され,本邦でも2008年に再発・難治性多発性骨髄腫に対して承認された12)。サリドマイドは血管新生阻害作用の他に,TNF-α等の炎症性サイトカイン産生阻害,造血器腫瘍細胞への増殖抑制作用を持ち,免疫調整薬に分類される。また免疫細胞に働きかけ免疫を賦活させる作用も持つ。 その後サリドマイドの誘導体で,より免疫調節作用や抗腫瘍活性の強いレナリドマイドが,2010年に本邦で再発・難治性多発性骨髄腫に対して承認された。再発・難治例に対し,大量デキサメタゾン療法にレナリドマイドを併用することで,大量デキサメタゾン療法と比較して有意に全奏効率,無増悪生存期間,完全奏効率の改善が得られると報告された13)。なお2014年1月現在,本邦で初発骨髄腫患者に対して保険適応があるのはボルテゾミブのみであるが,移植適応例及び非適応例の初発例に対してもサリドマイドやレナリドマイドを含むレジメンの有用性が報告されており14),今後これらの薬剤が選択可能になる可能性がある。また,これらの新規薬剤を用いて奏効した例に対して,レナリドマイドの維持療法の有用性が報告されてきており,治療オプションに加わる可能性がある。 これらの治療薬により寛解率が高まり生存期間が延長したものの,未だに治癒を得るのは難しく,新たな治療法の開発が望まれている。現在,このような再発・難治例に対して,新規プロテアソーム阻害薬のカーフィルゾミブや免疫調整薬のポマリドマイドが有望視されており,様々な臨床試験が行われている15)。カーフィルゾミブは2012年,ポマリドマイドは2013年にFDAで認可されたが,本邦でも早期に使用可能になることで,更に治療成績が向上することを期待する。3.低悪性度B細胞性リンパ腫 (図3)に低悪性度B細胞性リンパ腫に対する治療法の変遷を示す。低悪性度B細胞性リンパ腫の代表疾患である濾胞性リンパ腫は,緩慢な経過を辿るものの,化学療

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る