南予医学雑誌 第15巻
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井上、他:放射線治療による腫瘍崩壊症候群例南予医誌 Vol.15 No. 1 2014-59-はじめに 腫瘍崩壊症候群(Tumor lysis syndrome: TLS)は,何らかの原因による腫瘍細胞の急激かつ大量の崩壊により細胞内物質が急激に細胞外に放出され,その代謝産物量が生体の処理能力を超えることにより,高尿酸血症・高カリウム血症・高リン血症・腎不全・不整脈・突然死などを引き起こす,いわゆるoncologic emergencyの一つとされている。急激な細胞崩壊の原因として,抗がん剤や放射線,その他の治療開始が契機になるが,細胞回転の著しい亢進と腫瘍量の増大のため,治療前にTLSがみられることもある。 TLSは,悪性リンパ腫・急性白血病などの造血器腫瘍で化学療法の感受性が高い疾患において,治療開始直後に認められることが多い。 放射線療法に対する感受性が高い場合もTLSが出現することがあるが,報告は少ない。PubMedにて“tumor lysis syndrome” AND “radiotherapy”で検索したところ,造血器腫瘍で放射線療法によりTLSが生じた報告は,学会報告を含めても本邦の3例のみと稀である1),2),3)。 今回我々は,化学療法に不応の再発マントル細胞リンパ腫に対し放射線療法を行ったところ,早期にTLSを発症した症例を経験したので報告する。 【症 例】78歳女性 【主 訴】腹部膨満感 【既往歴】高血圧,高脂血症 【現病歴】2011年1月にマントル細胞リンパ腫と診断され,化学療法を行うも再発を繰り返していた。2012年12月頃から腹部膨満感を訴え腹部CT施行したところ,肝門部から膵頭部にかけて血管を巻き込む厚い軟部影を認めた(図1)。化学療法不応であり症状緩和目的で,腹部腫瘤に対し局所放射線療法を予定し,2013年11月初旬から放射線療法(36Gy/18回)開始とした。 【身体所見】  身長146.6㎝,体重51.0㎏,眼球結膜黄染なし,眼瞼結膜貧血なし,心音:純・整,肺音・清,腹部:心窩部膨満・軟・圧痛なし,腸蠕動音:正常,下腿浮腫なし,表在リンパ節腫脹なし 【放射線療法前の血液検査成績】 (表1) 【経 過】   放射線治療を開始し,2Gy×2回照射した後に倦怠感を訴え,歩行時のふらつきやせん妄,不穏行動,喘鳴,呼吸困難が出現し,尿量も減少した。血液検査を施行したところ,血清カリウム 5.0 mmol/l,血清クレアチニン 3.19 mg/dl,血清尿酸 16.2 mg/dl,血清リン 8.8 mg/dlと高カリウム血症,腎機能異常,高尿酸血症,高リン血症を認め(表2),TLSを発症したと判断した。補液2500mL/日とループ利尿薬でTLSから回復した。   2Gy×2回で照射を中断していたが照射後18日目に施行した腹部CT検査で明らかに腫瘍は縮小していた(図2)。   本例の腫瘍に対し,放射線療法は局所療法として有効であると考え,再度放射線療法(32 Gy/16回)を施行することとした。TLSが生じたことから,TLSの高リスク疾患の予防法に準じ,ループ利尿薬・補液2000mL/日・ラスブリカー

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