南予医学雑誌 第15巻
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年森、他:慢性膵炎合併1型糖尿病南予医誌 Vol.15 No. 1 2014-55-(表4) 血糖値,血清IRI,血清CPRと血清グルカゴン度分泌低下があり,本来であればDKAを呈しうると考えられるが,本症例は慢性膵炎合併によるグルカゴン分泌低下もあり,HHSとして発症したものと考察される。また,生活状況,慢性膵炎に伴うやせ,低脂血症などにより,ケトン体生成に必要な基質の供給低下も一因であったと考えられる。 入院後経過では,空腹時低血糖と食後高血糖が頻回に見られた。膵性糖尿病では,グルカゴン分泌低下による糖新生の低下,インスリン分泌能の低下を反映し,空腹時の低血糖,食後高血糖を生じるという血糖変動パターンを生じる10)。このため,低血糖の遷延や重症化がおこりやすく,血糖コントロールには注意が必要である。膵性糖尿病では生理的インスリン分泌を模倣し,食前の速効・超速効インスリンに持効型インスリン併用する頻回注射が望ましいとされる11,12)。本症例でも食直前の超速効型インスリンと就寝前の持効型インスリンの投与によるインスリン強化療法を行った。また,慢性膵炎による外分泌機能障害に対しては膵酵素補充療法を行った。 本症例のように絶対的インスリン欠乏状態であっても,ケトーシスやケトアシドーシスを呈さない場合が有る。HHSを発症(表3) 膵性糖尿病を疑う臨床徴候1.アルコール多飲歴(アルコール80 g/day以上)2.過去の腹痛,急性膵炎様発作3.やせ型の糖尿病4.経口血糖降下薬の無効例5.インスリン治療による低血糖発作既往6.インスリン治療中の血糖変動が著しい7.膵アミラーゼやリパーゼなど血中膵酵素が低値8.尿中C-ペプチド低値,血中グルカゴン低値9.糞便量,排便回数増加,脂肪便10.低栄養(低アルブミン,低コレステロール)(中村光男,丹藤雄介:膵臓 2010; 25(6): 658-659.より抜粋)

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