南予医学雑誌 第15巻
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南予医誌 Vol.15 No. 1 2014-54-考   察 糖尿病とはインスリンの作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患である1)。糖尿病では膵島β細胞からのインスリン分泌異常のみならず,α細胞からのグルカゴン分泌の調節異常も認められている。インスリン分泌低下時には,α細胞抑制作用低下によりグルカゴン分泌が促進されること(スイッチ・オフ作用)が報告されている2,3)。両者の分泌調節異常が糖尿病の背景にあり,血糖調節機構の破綻を引き起こしていると考えられている4)。 本症例はインスリン分泌能の高度低下と抗GAD抗体陽性例であり,1型糖尿病と診断した。1型糖尿病は,インスリンを合成・分泌する膵ランゲルハンス島β細胞の破壊・消失によるインスリン不足を主要な原因とする型である1)。1型糖尿病の特徴として絶対的インスリン欠乏状態により,ケトーシスやケトアシドーシスを来しやすいことが挙げられる5)。DKAではインスリン欠乏に伴い,糖新生の亢進が起こる一方で,インスリン拮抗ホルモン(グルカゴン,カテコールアミン,コルチゾールなど)の増加により,蛋白異化が亢進し,糖新生の亢進を助長する6)。しかし,本症例ではケトーシス,ケトアシドーシスは認められず,HHSと診断し加療を開始した。 また,本症例はアルコール多飲による慢性膵炎を合併しており,膵性糖尿病7)も認められた(表3)。慢性膵炎による吸収不良のため栄養不良状態であり,BMIの低下,低脂血症を認めた。またインスリン分泌低下に加え,グルカゴン分泌も低下していた。慢性膵炎非代償期では,グルカゴン,ソマトスタチンなどの内分泌能は不可逆的に高度に障害されている8)。特にグルカゴンの分泌障害は,肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生,脂肪酸の酸化を全て抑制するため,ケトアシドーシスが生じにくい9)。本症例においては,入院時の血液検査で,インスリン分泌の低下によりグルカゴンの高値が予測されたが,軽度上昇にとどまっていた。また,後日施行した血液検査でも上昇は見られず,慢性膵炎によるグルカゴンの分泌障害が示唆された(表4)。1型糖尿病と膵性糖尿病によるインスリンの高(表2) 入院時検査所見

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