南予医学雑誌 第15巻
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鹿田:造血器腫瘍治療の変遷南予医誌 Vol.15 No. 1 2014-3-る特異性は低いものの,in vitroでのBCR-ABL阻害活性はイマチニブの約300倍で,T315IやF317L変異を除く殆どのBCR-ABL変異に有効である。もう一つの第二世代TKIニロチニブは,イマチニブよりBCR-ABLに対する特異性が高く,in vitroでイマチニブの30倍のBCR-ABL阻害活性があり,T315IやY253Hを除く殆どのBCR-ABL変異に有効である。この2剤のCML患者への有効性を検討するために,イマチニブを対照としたダサチニブとニロチニブの第三相試験が行われた結果,2剤とも初発慢性期CML患者に対する細胞遺伝学的効果及び分子遺伝学的効果においてイマチニブより優れていると報告された3),4)。本邦でもすでにこの第二世代TKIの2剤が活用されている。初発CMLに対して最初から第二世代TKIを用いることで更に治療成績が改善する可能性があり,本疾患の治療はイマチニブ時代から第二世代の時代に移行しつつある。ダサチニブには胸水・出血,ニロチニブには 膵酵素上昇・血糖上昇・肝機能異常とそれぞれの薬剤に異なる副作用や服用法の違いがあり,患者のライフスタイルや身体状況によって適切な薬剤を選択するのが望ましい。 第二世代TKIの登場で更に治療成績の向上が期待できるが,それでも前述のT315I変異遺伝子変異を持つ症例は第二世代TKIを用いても無効とされている5)。これを克服すべくポナチニブという第三世代TKIが開発された。ポナチニブはT315I変異をはじめほぼすべてのBCR-ABL変異に対して有効とされ,本邦でも臨床試験が行われている5)。 TKIの登場で長期生存が可能になった一方で,新たな問題が生じてきている。TKIにて分子生物学的寛解に達した後に中止することができるか否かがクローズアップされてきている。長期間内服させることで,患者に経済的な問題や妊娠及び就労への影響等の問題が生じるため,臨床医は頭を悩ませられることもある。イマチニブ中止後40%が再発しなかったという報告があるが,現時点でどのような症例が中止可能かについてまとまった見解はない。現在この問題については国内でも盛んに臨床試験が行われており,早期解明が望まれる。2.多発性骨髄腫 多発性骨髄腫は骨髄で形質細胞の単クローン性増殖をきたす腫瘍性疾患である。最近の疫学調査で,多発性骨髄腫の殆どは単クローン性免疫グロブリン血症(mono-clonal gammopathy of undetermined sig-nicance : MGUS)から徐々に進展すると報告され,MGUSは多発性骨髄腫の前がん病変と考えられてきている。一般に治療の対象となるのはCRABで称される臓器障害,すなわち高カルシウム血症(C),腎不全(R),貧血(A),骨病変(B)のいずれかを有する症候性骨髄腫ならびに症候性非分泌型骨髄腫であり,M蛋白の量や骨髄中の形質細胞の割合で治療開始を決定する訳ではない。依然として難治性で,治癒が殆ど期待できない疾患であるが,診断法や治療法の変遷が大きい分野であり,本稿では新規薬剤を中心に多発性骨髄腫の治療法の変遷について述べる(図2)。 1960 年代にメルファランとプレドニゾロンを用いたMP 療法が導入され,完全寛解は得られないが,病勢進行を止めて生存期間を延長させることを目標とした治療が長らく行われてきた。このMP療法を凌駕

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