南予医学雑誌 第15巻
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市川:なんよだより南予医誌 Vol.15 No. 1 2014-121-専門制度 今日,地方の社会問題とまでなっている「医師・看護師等不足」の原因は単純にはいえないが,そのひとつには専門制度がある。公立病院は,それぞれの地域で中核病院としての一定の医療水準を担って診療を行っている。そもそも医療水準の概念は医療過誤裁判の課程で出来たものである。1961年2月16日に最高裁判所第一小法廷が「いやしくも人の生命及び健康の管理をすべき業務(医業)に従事する者は,その性質に照らして,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは,やむを得ないところといわざるをえない」とした。この開発中の治療を全臨床医に求めることに医療界が反発し,1982年3月30日の最高裁判所第三小法廷は「注意義務の基準となるべきものは,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」とした。その後,1988年1月19日に最高裁判所の伊藤正巳裁判官が補足意見として「医療水準は,全国一律に絶対な基準として考えるべきではない。当該医師の置かれた条件,例えば当該医師の専門分野,当該医師の診療活動の場が大学病院等の研究・診療機関であるか,それとも総合病院,専門病院,一般診療機関などのうちいずれであるかという診療機関の性格,当該診療機関の存在する地域における医療に関する地域的特性等を考慮して判断されるべきものである」とした。現在の裁判所の判断は主にこの意見が採用されている傾向にある。 一方で,医療が年々高度化していく中で主に急性期医療を中心に運営される公立病院は,この医療水準を保持するために専門化されたスタッフが必要となる。そのため,医師をはじめ医療職にある者は,それぞれの専門機構の指定する施設で,専門家としての資格習得のための研修を受け,その後も常にその資格維持のための研修を受け続けなければならない。その結果,これからの医療を担う若者が資格取得・維持のため特定の施設や指導者の多い都市部の大病院に集中する傾向がみられる。一方で患者は「命をかけて病院・医師を選ぶ」ため医療資源の偏りが生じることになる。そのため政令指定都市や県庁所在地等都市の病院と他の病院では公立病院間で職員確保の困難さが異なってきている。宇和島市病院局では医師・看護師の負担軽減の策として従来の定員枠を事実上棚上げにし,採用年齢も看護師は45歳までと大幅に延長し1年中の公募を実施,看護学生には奨学資金制度を設けている。また,7:1看護体制を目標にしての看護師採用を行っている。しかし,都市部の病院が大量の看護師募集を行っている現状では,看護師養成施設を卒業した若い看護師は都会の生活に魅力を感じ都市部の病院に就職している。その結果,宇和島出身者でさえ地元の病院に就職する看護師はきわめて少ないのが現状である。今後医療の分野でも地域格差がさらに進むことも予想される。医療制度改革 この度,社会保障制度改革国民会議が「確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋」として報告書を提出し,それに基づく医療制度改革が計画されている。これまでも1985年に地域医療計画が医療法に明記され,都道府県が医療計画を定め,計画的医療提供を行う事になっていた。今回の報

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