南予医学雑誌 第15巻
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南予医誌 Vol.15 No. 1 2014-120-安心な医療を提供するために心身共に疲弊している。その結果,職員が充足している都市部の病院にはさらに多くの職員が集まり,地方の病院では「立ち去り型サボタージュ」という現象が生じている。新臨床研修制度 2004年に新臨床研修制度が始まり,医師法第16条で「診療に従事しようとする医師は,2年以上,医学を履修する課程を置く大学に付属する病院又は厚生労働大臣の指定する病院において,臨床研修を受けなければならない」と規定された。それまで多くの医師は大学卒業後,いわゆる入局をして大学付属病院又は医局の関連病院で臨床研修を受けていたが,現在では医局に入局せず厚生大臣指定の研修病院で研修する医師が増えている。現在社会問題となっている地方の医師不足の原因を新臨床研修制度に求め,一部にその解消手段として以前のような入局制度の復活を望む声がある。しかし,価値観の多様化している時代に,無給での研修を当然のこととしてを受け入れた旧研修制度自体,時代に合わない制度であると思われる。むしろこれまでが異常であった事を理解し,研修制度改革は当然の結果として受け入れなければならないと考える。宇和島病院は2004年4月から研修病院の指定を受け,man to man方式の指導法を採用し,当初4名の研修医を受け入れていたが,2013年から6名に増員している。一方で,病院として将来の医療を担う研修医が知識・技術を習得出来るように環境の整備を行う必要がある。そのためにも健全な経営基盤が不可欠である。誤解 現在の医療現場をみると,一部に医療を受ける側と医療を施す側の認識にずれがあるために起こるトラブルが増えている。これは情報社会の副産物でもあるが,国民は平等に医療を受けられる権利があるため,全国どこでも同じ医療を受けることができると思っているふしがある。さらに,メディアの成功例ばかりの報道で,同じ医療を受ければ皆同じ結果となると洗脳されている面がある。もちろん,医療はそれを実施する側とそれを受け入れる側の契約によって成立するが,受診者側の状態は現代の科学をもってしてもデーターでは読み取れないこともあり,予測できない事態が起こることがある。医療行為はもともと過去の経験(文献的事例も含め)等から判断し,個別の症例に対してこれ以外に考えられないと判断した最良の行為を将来指向的・試行錯誤的に行うものであるから,結果が必ず保証されているわけではない。一方で,医療を受ける側はいくらリスクの説明を受け入れていても,現在の医療水準では計画通りにできて当然という意識がトラブルの一因になることがある。事実医療現場では診断,治療という医療の本質は勿論,患者・家族の説明に担当医師は大きな労力を費やしている。しかし,医療者側は十分なインフォームドコンセントを得ていると思っていても,医療という不確定な行為は結果次第で患者・家族に不満が生じ,その対応が勤務医の疲弊の原因にもなっている。さらに,高齢社会となり,医療を提供する側と医療を受ける側の価値観,生活習慣,地域性等が加わり,お互いの誤解も生じやすい時代背景がある。

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