南予医学雑誌 第14巻
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上野、他:乳癌胃転移の3例南予医誌 Vol.14 No. 1 2013-59-施行された。4年前より高血圧加療中。 現病歴:心窩部痛,嘔気を主訴に近医を受診した。上部消化管内視鏡検査で,胃体下部大彎のひだの肥厚とびらんを認め,生検でsignet-ring cellを指摘され,胃癌の疑いで当院を紹介受診した。 入院時身体所見:身長153㎝,体重59.5㎏。その他特記事項なし。 入院時血液検査所見:CA15-3が180.7U/mlと上昇していた。 胸腹部単純CT・PET-CT検査所見:胃の壁肥厚を認めるが,FDGは集積していなかった。大量の腹水があり,卵巣に嚢胞性病変とFDG集積を認め,卵巣への転移も疑われた。 上部消化管内視鏡検査所見:胃体下部大彎にひだの肥厚とびらんがあった。小彎にも壁硬化と小びらんが散在していた。胃の伸展は不良であった。 胃粘膜生検病理結果:胃原発のsignet-ring cellに類似した細胞を認めたが,粘液の液体貯留に伴う核の偏在・扁平化傾向がやや乏しいこと,核は胞体の中央に存在する細胞が目立つこと等,典型的なsignet-ring cellとは異なっていた。免疫染色では,CK7陽性,CK20陰性,ER陽性,PgR陰性,GCDFP-15陽性,E-cadherin陰性であった。以上より,乳腺浸潤性小葉癌の胃転移と診断された。 経 過:ドセタキセルによる化学療法を7コース終了しPRとなり,現在はアナストロゾールによる内分泌療法を行っている。考   察 乳癌の転移は臨床的に,肺,骨,肝臓,胸膜,脳に多いとされており,胃への転移は比較的稀である。しかし,剖検の検討となると報告例は多くなる。原岡らの検討によると,乳癌の消化管への転移率は17.8%,その中でも胃は5.9%と一番高いと報告されている1)。その組織型の占める割合は,浸潤性小葉癌37.7~52.4%,浸潤性乳管癌43.5~48.0%との報告2,3,4,5)であった。一般的に浸潤性小葉癌は全乳癌の中で数%程度であることを考慮すると,浸潤性小葉癌の胃への転移の割合が高いと考えられる。自検例でも,3例とも浸潤性小葉癌であった。 乳癌の胃転移の肉眼型は,4型,もしくはlinitis plastica様の形態をとることが多く,26.4~38.0%との報告があった2,4,5)。その他の内視鏡的特徴としては,0-Ⅱc型,タコイボ型隆起,SMT様隆起を示すとの報告が多かった。今回の3症例はいずれも内視鏡検査時に,送気をしても胃が広がらず,壁の硬化所見が特徴的であった。また,ひだの肥厚や消失,浅い不整形のびらんが散在している所見も見られ,肉眼的には4型の胃癌を疑わせた。ただ,典型的な4型胃癌に比べると原発部位のびらんや潰瘍が目立たない,ひだの肥厚が少ないような印象があった。乳癌の胃転移は血行性,もしくはリンパ行性に転移し,脈管の豊富な漿膜下層や粘膜下層から伸展しびまん性に浸潤するため,上記のような肉眼形態をとると考えられている5,6)。 乳腺浸潤性小葉癌の病理学的特徴として粘液産生能があり,細胞内に粘液貯留が見られ,signet-ring cell様の様相を示すと言われている2,7,8)。実際,今回の症例1と症例2では近医でsignet-ring cellを指摘され,進行胃癌として紹介された。症例3は19年前に乳癌の手術歴があり疑うことができたが,乳癌の再発は長期間経過してか

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