渡辺、他:ワセリンによる陰茎異物南予医誌 Vol.14 No. 1 2013-43- 病理組織 泡沫様の胞体を有する組織球の増生とリンパ球の浸潤を示した。異物が入っていたとみられる多数の空胞状構造を囲む組織球も存在した(図4)。注入後の異物反応とみられる所見で,悪性所見は認めなかった。 臨床経過 術翌日にバルーンカテーテルを抜去し,術後3日目に退院した。術後排尿障害や勃起障害は認めなかった。根部の包皮の除去は行っていないが,術後性交可能となり患者の満足の得られる状態への改善が得られた。 考 察 1900年,Gersunyが除睾術を行った患者の陰嚢にパラフィンを注入して睾丸形成を行った報告2)以来,パラフィン・ワセリン・オルガノーゲンなどの流動状油脂が組織内補填剤として使用されてきた。その後1964年,三好ら3)によってパラフィン系物質による乳房形成術後に生じた膠原病様疾患がヒトアジュバント病として報告され,合成樹脂系物質のシリコン・ナイロン・ポリエチレンなどが用いられるようになった。しかし,同様にヒトアジュバント病を呈した症例や,多臓器不全に至り死亡した症例などが報告1)され,現在では同様の物質を体内に注入する手技は医療行為としては行われていない。 陰部異物注入による合併症の報告の中でワセリン注入によるものは最も多く,自験例を含め21例1,4-6)が報告されている。年齢は18~65歳と幅広いが,特に性的活動の盛んな青壮年期に多く認めた。ワセリ(図4) 病理所見泡沫様の胞体を有する組織球の増生(矢印)とリンパ球の浸潤を示した。異物が入っていたとみられる多数の空胞状構造を囲む組織球も存在した。
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