南予医学雑誌 第14巻
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元木、他:小児化膿性仙腸関節炎南予医誌 Vol.14 No. 1 2013-37-後も症状の再燃なく,学校生活にも支障がないため発症後約3カ月で終診となった。考  察 化膿性仙腸関節炎は全ての小児の化膿性関節炎の約1.5%を占めるまれな疾患で,片側性であり年長児に起こりやすいとされる8)。本邦の小児の報告でも10歳代の報告が多く3-7,9),今回の症例も9歳と14歳でありほぼ矛盾がない。主な症状は発熱,片側の殿部痛および歩行困難だが本症に特異的な所見は乏しく,股関節炎や腰椎椎間板ヘルニアなど他の疾患と鑑別が困難なことが多い。理学所見に関してはGaenslen’s testや下肢伸展挙上テストなどが有用との報告もあるが9),患部の疼痛が強く施行が困難である場合も多い。症例1では当初は股関節炎を疑い,股関節痛の評価のためPatrick testおよびスカルパ三角の診察を行い陽性所見を得たが,今回はどちらも手技的に強く力をかけることで仙腸関節にも介達力が働き陽性所見となった可能性が考えられた。 発症原因は皮膚・咽頭・尿路・生殖器などの先行感染からの血行性伝播によるとされているが,小児では腹部や骨盤外傷が誘因となった例も報告されており6,8,10),問診の際には注意する必要がある。しかし,明らかな誘因がない症例も多く,今回の2症例でも原因は不明である。起因菌は黄色ブドウ球菌の報告が多く6,8,10),その他に表皮ブドウ球菌8),肺炎球菌4),大腸菌6),サルモネラ菌11)などが検出された例が報告されている。血液培養での起因菌の検出率は45.5%10),83%6)など報告によって様々で,仙腸関節滑液の培養のほうがより検出率は高いとの報告もあるが10),仙腸関節液の採取は手技的に困難である。今回の2症例では,診断としては明らかなMRI所見を認めていたため,どちらの症例も関節液の採取は行わなかった。また1例からは血液培養で黄色ブドウ球菌が検出されており,起因菌を特定するためにも抗生剤投与前の血液培養採取が重要と思われた。 化膿性仙腸関節炎の合併症として膿瘍形成や敗血症による死亡例などの報告があり6,7,10),また遠隔期の仙腸関節強直や臀部の慢性疼痛,歩行異常などの後遺症が残るとの報告もあるため10),可能な限りの早期診断および治療が重要である。画像検査では,骨盤部単純X線検査,CT,核医学検査,MRIなどが挙げられるが,単純X線検査やCTでは関節間隙の開大や骨侵食像が見られるが,発症初期の段階では異常が指摘されない場合もあり,早期診断の観点からは限界がある3)。核医学検査は仙腸関節炎の早期診断に有用であるという報告も多いが6,9),単独では確定診断には至らず,CTやMRIでの病変部位や範囲の同定が必要となる場合が多い。化膿性仙腸関節炎のMRI所見はT1強調像で低信号,T2強調像で高信号となり,早期診断に有用であるという報告が多数ある3-7,10)。さらに造影MRIや脂肪抑制像の追加で関節の炎症や周囲への炎症の波及がより明瞭に検出されるとの報告も散見される4,5,12)。今回の2症例においても脂肪抑制像を撮像することで,より鮮明に仙腸関節の炎症および周囲への炎症の波及を確認することができた。病初期は強い炎症が起こっており全身状態が不安定である場合も多く,造影剤の使用に関しては躊躇する場合もあると考えられ,造影剤を使用しない脂肪抑制像は化膿性仙腸関節炎の早期診断に特に有用であると考えられた。

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