南予医学雑誌 第13巻 第1号
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大熊、他:スズメバチによる角膜刺傷例南予医誌 Vol.13 No. 1 2012-41-きたしており,刺傷が後房・水晶体にまで達していた可能性が疑われる。このような症例においてはいかに早期に前房洗浄を行ったとしてもその予後は厳しいと推測され,刺傷の深さ・注入された毒液量が与える影響は非常に大きいと思われた。 また,本症例を含む全5例で,重篤な角膜内皮障害が認められた。角膜内皮細胞は生後増殖しないことが知られており,前房内に毒素が注入された時点で角膜内皮細胞が障害され,回復しないことを示しているものと思われる。また,角膜内皮細胞障害の程度は前房内に注入された毒素量を反映している可能性が示唆される。一方で,高らより,刺傷がなく,眼前を通り過ぎたスズメバチより発射された毒液が眼に飛入しただけで水疱性角膜症に至った例も報告されており6),角膜実質に浸透した毒素による角膜内皮障害の可能性も示唆される。刺傷部である角膜内の毒素は例え前房洗浄を行っても除去不可能であり,前房洗浄までの時間に関わらず全例に内皮障害を来した可能性も考慮する必要があるかもしれない。 次にステロイドの投与方法・投与量について比較する。過去の報告では,局所投与としてベタメタゾン点眼4~6回と一部症例でデキサメタゾン結膜下注射1~2回(1.65㎎/0.5㎖)の追加が,全身投与としてプレドニゾロン換算で200㎎以上のステロイド点滴投与が主に試みられている(表2)。ステロイド投与方法・投与量と治療後視力の関係は,毒素の量・深達度,前房洗浄までの時間,水疱性角膜症の影響があり,一概には判断できない。しかしながら,藤本・三木らより前嚢下白内障を,鈴木らより続発緑内障を来したという報告からは,ステロイド全身投与を行ったとしても,強い前房炎症が遷延し,これらの疾患が生じた可能性が示唆された3~5)。 スズメバチ角膜刺傷では高度の前房炎症が必発で,数ヶ月遷延することも珍しくない。水疱性角膜症以外で刺傷後の視機能に影響する疾患として,前嚢下白内障や続発緑内障は重要であり,これらを予防するためには強力かつ速やかな前房炎症の鎮静化が必要である。前眼部をターゲットとした消炎という観点からは,ステロイド全身投与よりも局所投与,特に結膜下注射が望ましい。過去の報告における局所治療ではベタメタゾン点眼4~6回と一部症例でデキサメタゾン結膜下注射1~2回が行われたのみであり,これらはスズメバチ角膜刺傷によって生じる前眼部炎症の鎮静化にはやや不十分である可能性が示唆された。本症例では,ベタメタゾン点眼10回/日,デキサメタゾン結膜下注射1.65㎎×計8回を行い,局所ステロイド投与量としては過去の報告と比べ最も多かった。一方で全身投与量はプレドニゾロン換算で150㎎を3日間投与後さらに減量と,過去の報告と比べ少なかったが,受傷後2週間までに眼内炎症はほぼ消失し,前嚢下白内障や続発緑内障といった炎症による機能的眼障害を生じなかった。前眼部の速やかな消炎による二次的眼障害予防において,デキサメタゾン結膜下注射を頻回に行ったことが有効であったと思われ,また局所治療が徹底されればステロイド全身投与量は必ずしも多い必要はない可能性も示唆された。しかし,ステロイドに蜂毒素を中和する効果はなく,毒素による直接的な眼組織障害の強いスズメバチにおいては治療の前提は早期前房洗浄による毒素除去であり,本症におけるステ

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