南予医学雑誌19巻
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河野、他:PCI施行患者の脂質低下療法南予医誌 Vol.19 No. 1 2019-37-序言 冠動脈疾患患者に対するスタチンを用いた積極的脂質低下療法は,心血管イベント発症を抑制する1)。また,急性冠症候群発症早期からのスタチン治療は,LDLコレステロール(LDL-C)を有意に低下させ,早期の再発性虚血イベントを抑制し2),プラーク退縮効果が期待される3)。冠動脈疾患患者では心血管イベント発症率が高くなるため,二次予防としての脂質低下療法は非常に重要である。今回,当院で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行された患者の脂質低下療法の現状について検討した。対象および方法 2015年4月から2017年3月の間に当院でPCIを施行した患者は303例であった。そのうちPCI前後における脂質管理の経過観察が可能であった239例(緊急PCI群:104例,待機的PCI群:135例)において,後ろ向きに検討を行った。PCI後のフォローアップ時期の平均は,7.0±3.0ヶ月(緊急PCI群:6.9 ± 3.2ヶ月,待機的PCI群:7.1 ±2.8ヶ月)であった。結果 患者背景を(表1)に示す。急性心筋梗塞は緊急PCI群で多く,待機的PCI群では安定狭心症が多かった。過去にPCIを施行されたことがある患者は待機的PCI群で多く,緊急PCI群では初回の心血管イベント症例が多かった。冠危険因子は,高血圧,脂質異常症,糖尿病が多く,両群間における有意差は認められなかった。 PCI前の薬物療法と脂質データを(表2)に示す。待機的PCI群では緊急PCI群と比較してスタチンの内服率が有意に高く,LDL-Cも有意に低値であった。また,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬,β遮断薬による薬物療法も待機的PCI群で有意に高率であったが,これらは待機的PCI群で過去にPCIを受けた症例が多いことに起因すると考えられた。 続いてPCI後の薬物療法と脂質データを(表3)に示す。PCI後は両群ともスタチンの内服率が上昇し,LDL-Cは低下し,両群間の有意差は認められなくなった。また,PCI後では緊急PCI群の90例(86.5%),待機的PCI群の106例(78.5%)でLDL-Cは100未満に低下しており,両群とも良好にコントロールされていた。考 察 脂質異常症は,高血圧,糖尿病,喫煙などとともに,冠動脈疾患のリスク因子である。中でも高コレステロール血症は動脈硬化の進展に特に関連が深く,その管理は重要である。冠動脈疾患患者に対してスタチンによる積極的脂質低下療法を行うことで,LDL-C 1.0mmol/L(38.7mg/dL)低下あたり,1年後の主要血管イベントが22%減少したことが報告されている4)。これまでの様々な臨床試験から,冠動脈疾患患者のLDL-Cについては“the lower,the better”という考え方が浸透し,二次予防としてLDL-Cは100mg/dL未満を目標とした積極的治療が推奨されている。さらに,高用量スタチンを用いた積極的脂質低下療法によりLDL-Cを70mg/dL未満に低下させると冠動脈プラーク進展を抑制できることが報告され5),さらにLDL-Cを低下させ

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