南予医学雑誌 第15巻
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川口、他:一次救命処置講習会の受講記録分析南予医誌 Vol.15 No. 1 2014-47-非医師職員の73.3%がAEDを使用できる状況となった。この結果,院内どこからでも心肺蘇生を開始できると考えられた。また,受講により急変対応に関する不安がかなり減少したとの受講者の感想が聞かれた。 受講者がほとんどいない段階から5年間,10回の講習会を実施し,この結果職員数とほぼ同数の累積受講者数を達成した。そして現・在籍職員における70%以上の受講率を達成できた。このことから次の10回の講習会の後には90%以上の受講率になることが期待される。 一方で,受講済み職員の再教育・再研修という課題もある。心肺蘇生法ガイドラインは5年ごとに改定されることが見込まれる。現行ガイドラインでの受講率が,32.9%にとどまっていることから,最新のガイドラインでの講習を受けていない職員には,未受講者同様に受講を促して行くことが必要となる。さらに,看護師については,一次救命処置のみならず,二次救命処置講習の受講率も向上させて行く必要がある。医師についてもAED使用については法的な問題はないが,院内職員とともに一次・二次救命処置を円滑に実施して行けるよう,これらの講習の受講を促す必要がある。 講習会の受講記録を蓄積することで,非受講者に受講を奨める手がかりとなる。病院として全職員の受講,さらには最新ガイドラインでの全員受講という目標を掲げ,それが可能となるような研修機会を設けて行きたい。また,この講習会は新就職者に対する教育の一環としても有用であり,入職から早い段階で受講できる体制を整える価値がある。さらに,医療事務員などの委託職員も受講の意欲をみせている。当院勤務者のみならず,他院勤務者を含めた委託職員対象の講習会も視野に入れたい。 当院の各職種の定着状況を比較すると,事務職の回転が最も速かった。しかし,市立病院職員として市の他部署から転勤して来た職員が早速講習会を受講することはすでに当院の慣例となっている。また,市の他部署に転出した職員が市民対応中の緊急事態などに自信をもって対応できることも期待される。さらには当院各職員が家庭や地域において,法律的にも知識・技能の上でも,AED使用を含む一次救命処置を実施できることは,地域の救急対応能力を高めることに役立つであろう。 当院の心肺蘇生法講習会施行においては器材提供,指導人員派遣などの形で,地元消防本部に多大な協力をいただいている。このことが当院職員だけでなく,消防の管轄地域(八幡浜市,伊方町,西予市三瓶町)の医療機関などに当院の講習会受講の機会を提供する理由となっている。しかし,地域全体の病院職員の心肺蘇生能力の向上という観点に立てば,八幡浜医師会などにこの講習会を主催していただき,地域の医療関係者に積極的に受講を呼び掛けていただく方がより直接的な効果を期待できるであろう。そして,消防職員および当院職員のみならず,地域の医療職員の中に心肺蘇生法インストラクターを養成したり,講習会開催のノウハウを共有することを考えたい。 以上,当院において5年間,10回にわたって実施した一次救命処置講習会のねらいとその成果についてまとめた。引き続き院内での受講率向上をはかる一方で,再講習機会の提供,ニ次救命処置講習会の受講率向上,地域医療機関における心肺蘇生法の普及などにも尽力したい。

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